コンテナセキュリティ器材導入の最新動向(米国会計検査院レポートGAO-10-887)
僕が長く追いかけている研究テーマに海上コンテナ用のセキュリティ器材がある。商業目的での需要も存在するのだが、基本的には各国政府による貿易促進や密輸・テロ防止を目的とした利用の優遇、義務付けが本格導入のキーになると考えられている。だが、政府の動向を外部から窺い知ることは非常に難しい。貿易促進に関する議論についてはまだしも、セキュリティに関する議論は国家機密に属するもので、外部に流出するものではないからだ。その結局、報道だけに注目していると特定のプロジェクトやベンダーの視点を反映させた議論ばかりが目に付くことになる。
そのような悪条件の中でセキュリティの専門家が注目する資料に米国会計検査院(GAO, Government Accountability Office)が作成するレポートがある。米国会計検査院は行政部門の支出が適切であるかどうかを監査し議会に報告する機関。軍事などの面でも容赦の無い調査を行なって国民にWeb上で公開しており(もちろん日本からもアクセスできる)、こんなことまで公開してしまっていいのだろうかと読んでいて不安になることもしばしば。海上コンテナのセキュリティについても同様に取り上げられており、これまでもいくつも重要なレポートが公開されている。
昨年の9月に新たなレポートが公開された。SUPPLY CHAIN SECURITY: DHS Should Test and Evaluate Container Security Technologies Consistent with All Identified Operational Scenarios to Ensure the Technologies Will Function as Intendedというタイトルの文書だ(GAO-10-887, pdf形式)。このレポートでは、アメリカが従来取り組んできたコンテナセキュリティ器材開発の現状を総括し、更にコンテナセキュリティ器材が今後直面する課題についても述べている。
このレポートはアメリカ政府の取り組みについて、サプライチェーンセキュリティ対策の根幹にあるレイヤードアプローチから説明を始め、さらに現在動いている4種類のコンテナセキュリティ器材向け技術の現状について解説している。それら器材は以下の4つである。\
- Advanced Container Security Device (ACSD) - コンテナの6面すべてについての侵入を検知できる器材
- Container Security Device (CSD) - コンテナドアからの侵入を検知できる器材
- Hybird Composite Container - コンテナの壁面に開けられた穴を検知するためのセンサーを埋め込んだ構造材
- Marine Asset Tag Tracking System (MATTS) - ACSDもしくはCSDで検知した情報を外部に送信するための通信器材
これら4種類の器材は以下の手順で開発が行われることになっている
- 実験室テスト(Phase 1) - 実験室の環境で器材が正しく動作することを確認する。最低10種類のプロトタイプが評価されることが条件。
- 実運用テスト(Phase 2) - 実際に貿易で使われているコンテナに取り付けて動作することを確認する。最低100回の輸送が行われ、すべての評価条件が含まれている必要がある。
- 評価基準の公表 - システム要件とテスト計画書を作成し、税関・国境警備局に引き渡す。
現在、上記4器材の開発達成段階は以下のように評価されている
- ACSD - 実験室テストが未完了。誤検知率が基準値より高く、要件を満たしていない
- CSD - 2011年10月に実運用テストを完了。評価基準作成を開始予定。
- Hybird Composite Container - 実験室テストが未完了。ベンダーが適切な開発体制を整えられなかった。
- MATTS - 2011年10月に実運用テストを完了。評価基準作成を開始予定。
さらに、このレポートは評価基準が公表された後にも導入への困難が予想されるとして3点の課題を挙げている。国際物流業界および外国のサポートの獲得、操作要件書の開発、製品の認定である。
まず、国際物流業界および外国のサポートに関して、船社と荷主の間での責任分担がはっきりしていないこと、現行のC-TPAT Tier3メンバーからはTier3の維持のためにCSD器材を取り付けることに抵抗があることなどが具体的な課題に挙げられている。
操作要件書(CONOPS, Concept of Operations)の開発への課題としては、どのような操作を誰が行うかを明記する必要があるが、例えばShipperか輸送業者かConsigneeの代理人なのか、また輸送途中で通過国の税関がコンテナを開ける場合があるがそれをどのように扱うかが例示されている。
製品の認定の課題には、実際に製品の性能を検証することが可能な認証方式をどのように作るか、認証をタイムリーに実施することができるかという点が取り上げられている。
このレポートの内容それ自体は画期的なものではない。記述されている項目は少なくとも業界のインサイダーには共有されていたものであり、結論も常識的なものである。だが、このレポートは2つの点で重要である。まず単純に、アメリカのサプライチェーンセキュリティへの現時点での取り組みが網羅的に含まれており、その中には日本でほとんど知られていないものも多いこと。付録に関連・背景状況が詳しく記載されていることもあり、資料性が極めて高い。そしてもう1点は、アメリカ政府はコンテナセキュリティ器材導入の最重要の当事者であり、業界がこのレポートの公表を受けて動き出していることである。レポート自体はコンテナ監視器材の早期導入を推奨するものではないため過剰な反応は不要だが、今後注視していくことが必要だろう。
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