川村記念美術館は欧米の20世紀美術、特にアメリカの戦後抽象絵画の優品を所蔵することで知られた美術館。このジャンルが好きな僕はずいぶん前から一度は訪れてみたいと思っていたのだが、佐倉駅から送迎バス30分という立地が災いしてなかなかチャンスがなかった。思いついてふらっと出かけるには遠すぎるし、かといって美術館を目的とした旅行(たとえば直島の地中美術館への旅行みたいな)を企画するには近すぎる。成田からの帰りに立ち寄って、と思ったこともあったが海外帰りにそんな元気が残っているわけもない。このままではいつまでも出かける機会がない!と思い切り、同じく佐倉にある国立歴史民俗博物館と合わせて出かけることにした。
上に書いたとおり送迎バスに30分載って到着した美術館は静かな庭園の中にある。美術館の建物はそれほど大きくはないが展示の密度は濃い。入って最初のヨーロッパ近代美術の展示室からはっとするような作品が並ぶし、ジョセフ・コーネルの《鳥たちの天空航法》は彼の作品中の白眉だと思うが、やはり圧巻は2つの専用展示室、ロスコ・ルームとニューマンズ・ルームになる。
ロスコ・ルームはマーク・ロスコのシーグラム壁画作品を7つ展示した部屋。去年の10月に現存するシーグラム壁画作品をすべて並べた展示をTate Modernで見たが、今回見た展示はその時よりも良かったと思う。窓のない小さな部屋に作品を並べて照明は暗めに。Tate Modernでの展示とは違い作品は椅子に腰掛けたときにほぼ目の高さとなるよう作家の意思に忠実に配置されている。ロスコの作品の赤色は鉄の赤。赤錆の色、アメリカの砂漠の砂の色であると同時に、ベンガラの色、そして血の色でもある。それらのさまざまな赤色がグラデーションをあやなす作品がひどくアメリカ的であると同時に懐かしくも見えるのは当然なのだろう。
もう一つのニューマン・ルームはロスコ・ルームの真上、階段を上がった場所にある。展示されている作品は階段を上がる途中で目に飛び込んでくるバーネット・ニューマンの《アンナの光》のみ。グラデーションのない赤一色の長方形でよく見るとキャンパスの左右に白の余白があるだけのシンプルな作品なのだが、外光を取り入れた開放的な空間に置くと異様なまでの存在感を発する。窓の外はレースのブラインドを通しても分かる灼熱の夏日。それとクールで外界との交渉を突き放すような《アンナの光》との対比の緊張感は圧倒的だった。この二つの部屋の取り合わせほどアメリカ抽象絵画の持つ精神性を表現しきった展示を僕は知らない。しゃべりながら部屋に入ってきた観客がみなとたんに無口になるのが印象的だった。
で、タイトルは現在開催中の小企画展。同館所蔵の欧米の作品を4ジャンル選び、それに関連する日本の作品と並べて展示するというもの。面白い試みだと思うが、常設展が凄すぎた後だったので正直印象は薄かったかな。
ともあれ、足を運んだ甲斐は充分にあった一日だった。場所が場所だけにそうそう頻繁には訪れられないが、いつかまたロスコの、そしてニューマンの作品を眺めに来たい。
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