2011/01/27

コンテナセキュリティ器材導入の最新動向(米国会計検査院レポートGAO-10-887)

僕が長く追いかけている研究テーマに海上コンテナ用のセキュリティ器材がある。商業目的での需要も存在するのだが、基本的には各国政府による貿易促進や密輸・テロ防止を目的とした利用の優遇、義務付けが本格導入のキーになると考えられている。だが、政府の動向を外部から窺い知ることは非常に難しい。貿易促進に関する議論についてはまだしも、セキュリティに関する議論は国家機密に属するもので、外部に流出するものではないからだ。その結局、報道だけに注目していると特定のプロジェクトやベンダーの視点を反映させた議論ばかりが目に付くことになる。

そのような悪条件の中でセキュリティの専門家が注目する資料に米国会計検査院(GAO, Government Accountability Office)が作成するレポートがある。米国会計検査院は行政部門の支出が適切であるかどうかを監査し議会に報告する機関。軍事などの面でも容赦の無い調査を行なって国民にWeb上で公開しており(もちろん日本からもアクセスできる)、こんなことまで公開してしまっていいのだろうかと読んでいて不安になることもしばしば。海上コンテナのセキュリティについても同様に取り上げられており、これまでもいくつも重要なレポートが公開されている。

昨年の9月に新たなレポートが公開された。SUPPLY CHAIN SECURITY: DHS Should Test and Evaluate Container Security Technologies Consistent with All Identified Operational Scenarios to Ensure the Technologies Will Function as Intendedというタイトルの文書だ(GAO-10-887, pdf形式)。このレポートでは、アメリカが従来取り組んできたコンテナセキュリティ器材開発の現状を総括し、更にコンテナセキュリティ器材が今後直面する課題についても述べている。

このレポートはアメリカ政府の取り組みについて、サプライチェーンセキュリティ対策の根幹にあるレイヤードアプローチから説明を始め、さらに現在動いている4種類のコンテナセキュリティ器材向け技術の現状について解説している。それら器材は以下の4つである。\

  • Advanced Container Security Device (ACSD) - コンテナの6面すべてについての侵入を検知できる器材
  • Container Security Device (CSD) - コンテナドアからの侵入を検知できる器材
  • Hybird Composite Container - コンテナの壁面に開けられた穴を検知するためのセンサーを埋め込んだ構造材
  • Marine Asset Tag Tracking System (MATTS) - ACSDもしくはCSDで検知した情報を外部に送信するための通信器材

これら4種類の器材は以下の手順で開発が行われることになっている

  1. 実験室テスト(Phase 1) - 実験室の環境で器材が正しく動作することを確認する。最低10種類のプロトタイプが評価されることが条件。
  2. 実運用テスト(Phase 2) - 実際に貿易で使われているコンテナに取り付けて動作することを確認する。最低100回の輸送が行われ、すべての評価条件が含まれている必要がある。
  3. 評価基準の公表 - システム要件とテスト計画書を作成し、税関・国境警備局に引き渡す。

現在、上記4器材の開発達成段階は以下のように評価されている

  • ACSD - 実験室テストが未完了。誤検知率が基準値より高く、要件を満たしていない
  • CSD - 2011年10月に実運用テストを完了。評価基準作成を開始予定。
  • Hybird Composite Container - 実験室テストが未完了。ベンダーが適切な開発体制を整えられなかった。
  • MATTS - 2011年10月に実運用テストを完了。評価基準作成を開始予定。

さらに、このレポートは評価基準が公表された後にも導入への困難が予想されるとして3点の課題を挙げている。国際物流業界および外国のサポートの獲得、操作要件書の開発、製品の認定である。

まず、国際物流業界および外国のサポートに関して、船社と荷主の間での責任分担がはっきりしていないこと、現行のC-TPAT Tier3メンバーからはTier3の維持のためにCSD器材を取り付けることに抵抗があることなどが具体的な課題に挙げられている。

操作要件書(CONOPS, Concept of Operations)の開発への課題としては、どのような操作を誰が行うかを明記する必要があるが、例えばShipperか輸送業者かConsigneeの代理人なのか、また輸送途中で通過国の税関がコンテナを開ける場合があるがそれをどのように扱うかが例示されている。

製品の認定の課題には、実際に製品の性能を検証することが可能な認証方式をどのように作るか、認証をタイムリーに実施することができるかという点が取り上げられている。

このレポートの内容それ自体は画期的なものではない。記述されている項目は少なくとも業界のインサイダーには共有されていたものであり、結論も常識的なものである。だが、このレポートは2つの点で重要である。まず単純に、アメリカのサプライチェーンセキュリティへの現時点での取り組みが網羅的に含まれており、その中には日本でほとんど知られていないものも多いこと。付録に関連・背景状況が詳しく記載されていることもあり、資料性が極めて高い。そしてもう1点は、アメリカ政府はコンテナセキュリティ器材導入の最重要の当事者であり、業界がこのレポートの公表を受けて動き出していることである。レポート自体はコンテナ監視器材の早期導入を推奨するものではないため過剰な反応は不要だが、今後注視していくことが必要だろう。

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2010/09/05

スマートコンテナ器材の普及モデル(日本物流学会全国大会発表)

日本物流学会第27回全国大会でタイトルの発表を行った。昨年発表した「スマートコンテナ器材の最近の動向」を論文に開こうとするとやはりきっちりした普及モデルが必要であることを痛感し、あれこれ調べてキャズム理論をベースにしたもの。現時点では感想論なのでこれから何らかの形で実証していかないと論文にならない。今年中に何とかなるかなぁ…。

予稿(pdf形式)プレゼンテーションスライド(pdf形式)

要旨

スマートコンテナとはセンサーと無線通信機能を持ち取得した情報や警報を無線で伝えることが可能なコンテナ器材である。現時点でスマートコンテナは技術的な完成度を高め、陸上輸送や軍事の分野で本格的な普及が始まっているが、商業コンテナ輸送の分野では本格的な普及段階には到達していない。本稿では、ハイテク製品の普及モデルとして広く利用されているキャズム理論がスマートコンテナへ適用が可能であることを論じると共に、現段階での普及での課題として具体的で切迫した顧客ニーズの発見、市場セグメントの適切な分割、ホールプロダクトの開発を挙げた。また、キャズム理論から外れる可能性として政府による介入を挙げ、その影響についても論じた。

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2009/09/27

内側から見た標準化機関(日本システムアナリスト協会関東支部発表)

このブログの直接のテーマからは少し離れるのだが、最近少し縁ができたISOの活動についてITエンジニア団体の定例会で発表してきた。コンテナセキュリティやRFIDとは無関係の勉強会だし、ITエンジニアにとってはISOは技術規格ではなく管理系のフレームワークとしての側面が強いので、正直思ったほどの手ごたえはなかったかも知れない。

そんなわけで使ったスライドも具体的な話に触れているわけではないのだが、ISO(およびITU・IEC)といった公的標準規格がなぜ大事なのかといった話とか、ISOの中での実際の作業、日本政府の支援方針とそれが現場にいる人に届くための課題みたいなものとかをざっとまとめたものになった。活動を初めて1年にもならない僕が書くのもおこがましいような話だが、この分野に知識を持たない人に今北産業的に伝えられるものにはなったかなと思う。ご興味があればどうぞ。

(発表スライド: pdf形式・82kb)

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2009/09/14

スマートコンテナ器材の最近の動向(日本物流学会全国大会発表)

日本物流学会第26回全国大会でタイトルの発表を行った。以前に似たようなタイトルのエントリ(スマートコンテナ製品の最近の動向)を書いたがその内容をコンセプトの点から発展させたもの。今回は前回以上に論文レベルの内容に広げていくのが大変そうなのだが、テーマとしては面白いし何より世間に広く理解されて欲しいものなので気合を入れなければ。

予稿(pdf形式)プレゼンテーションスライド(pdf形式)

要旨

スマートコンテナとはセンサーと無線通信機能を持ち取得した情報や警報を無線で伝えることが可能なコンテナ器材である。現時点ではスマートコンテナ用の構内無線インフラが存在しないことを理由に導入は時期尚早であると一般に認識されているが、この認識は適切ではない。最新のスマートコンテナは通信機能を拡張可能で将来構内無線インフラ規格が決まってから対応が可能である。また、スマートコンテナの用途には、構内無線インフラを必要とするものだけではなく、携帯電話・衛星電話のみを利用するものも存在する。先行ユーザーがそれら用途で利用を開始することで、利用経験を踏まえて製品が成熟していき、構内無線インフラの導入議論が進むという望ましい普及モデルが可能になる。そのためには物理特性および相互接続性の標準化が必要である。

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2009/07/10

コンテナ監視器材の導入をめぐる議論に対する考察(日本物流学会誌第17号掲載)

ここしばらく全然エントリを起こせていない。最近IEEE 802.15.4プロトコルの研究を始め、自由になる時間のほとんどをその分野の資料を読むのに充てているのが大きい。その分野から何がしかネタを拾って、とも思うのだが、ちょっとテクニカルに過ぎるし自分にまだ土地勘が無いので面白いネタを切り出せない。しばらくは投稿ペースが落ちた状態が続きそうだがご容赦願いたい。

さて、日本物流学会誌の第17号にタイトルの論文が審査付き論文として掲載された。昨年の学会発表「コンテナ監視器材に見る安全保障分野でのコンプライアンスリスク」を基にした内容で、ページ数が増えた分やや視野は広くなっていると思う。

ダウンロード(pdf形式)

要旨

アメリカ同時多発テロ以降、コンテナ物理セキュリティの主目的は物流関係者の損害の最小化からテロ行為の防止へと変化した。だが、規制を先導したアメリカでの動向を見ると、一定のコストで統計的なリスクを最小化しようとする行政府と、有権者の不安を背景に直感的な納得・安心を求める議会の一部との間で意見の対立が存在する。コンテナ物理セキュリティの中核であるコンテナ監視器材は現時点では商業輸送分野での本格的な利用の可能性が検討されている段階であるが、一方で安全保障目的の器材の普及が進んでおり、価格の低下や技術の標準化などで商業輸送用の製品との区別があいまいになりつつある。よって、商業用のコンテナ監視器材の標準化が足踏みしている間に安全保障目的で開発された器材が議会により採用を決定され、商業輸送分野で不必要なコストの増大や運用上の問題を生じさせる可能性がある。本稿では、商業輸送と同じ技術を用いたコンテナ監視器材が安全保障分野で導入されている事例を紹介すると共に、物流関係者が取るべき対応策を提示する。

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2009/05/25

ODIN Blackbird (Gen2リーダー搭載スマートコンテナ)

先日開催されたRFID Journal LIVE 2009で、ODIN Technologies社のスマートコンテナBlackbirdが披露された(RFID Journal:ODIN Technologies Unveils End-to-End EPC Gen 2 Tracking for Supply Chains)。同社はこの製品にかなり力を入れているようで、通常のセミナーのほかBest in Showでの発表やベンダーワークショップなども利用して何度も発表を行っていた。特にBest in Showでは本物のコンテナ(TRICONという20フィートISOコンテナの3分の1のサイズの軍用コンテナ)を持ち込み、実際の設置の様子を見せていたほど。この製品は台湾のMTI社(Microelectronics Technology Inc.、日本の同名の会社とは別会社)が開発したそうで、ブースや発表会には同社のエンジニアも参加していた。

スマートコンテナといってもセキュリティ系の製品ではない。コンテナの内側にGen2リーダーを取り付け、コンテナに出し入れされるケース・カートンのタグを読み取るというもの。コンテナ内のケース・カートンの状況を知るための器材開発プロジェクトとしては"Secure Carton Initiative"が以前に話題になったが、Blackbirdはこのプロジェクトとは連動していない。

Gen2タグをコンテナに載せただけのアイデア製品じゃないの、などと言ってはいけない。Blackbirdは本体(Command and Control Unit, CCU)と2つのアンテナ一体型リーダー(Blackbird Wing)から構成される。本体とリーダーはPoE対応のイーサネットケーブルで接続され、磁石でコンテナに貼り付けることで1分でセットアップが完了する。つまりリーダーがアンテナの調整を自動で行う設定自動化機能を持っているのだ。さらに、1日1回の読み取りを行って1年間の電池寿命を持つと省電力性能も高い。この2点はGen2技術を知っているものにとってはかなり驚くべきブレイクスルーだと思う。

ひょっとしたら通信機能まで内蔵しているのか、と思ったのだがさすがにコンテナ内部から通信できるはずはなくコンテナ外部に取り付ける通信モジュールと連携するようになっている。現在連携可能な通信モジュールはISO 18000-7、Wi-Fi、携帯電話、衛星電話。この中ではWi-Fiへの対応が目を引く。Wi-Fiは高速通信が可能だが消費電力が大きいため、セキュリティ系のスマートコンテナでは通常は採用されないのだ。カートンから取得したタグ情報を蓄積し、拠点でまとめて読み取るといった運用を考えると、消費電力で妥協しても高速な無線通信インタフェースが欲しいということなのだろうか。

Gen2リーダーと通信機能のほかにはGPSを内蔵しており、更に光・温度・湿度・振動などの外部センサーを接続することができる。台湾・新竹からコロラド州デンバーまでBlackbirdを輸送したときのGPS情報をサーバに送信し、そのトラッキング記録をGoogle Mapで表示したサンプルを同社のサイトで見ることができる(ここ)。

こういう製品のスポンサーになるのはやはり米軍。海軍が100億円のプロジェクト予算を付けて評価し、そのビジビリティ用途での威力を"UAV for logistics"と表現したと展示会で話していた(UAVとはイラクやアフガンで活躍する無人偵察機)。相当に高い評価だな、と思っていたが、後で調べてみると評価していた部隊は施設工兵隊。彼らの任務は戦場まで出張っていって基地や飛行場の建設・復旧を行うことであり、そういう倉庫インフラが未整備な地域での部隊の移動が頻繁な任務であれば、移動可能なインテリジェント倉庫としてこの種の器材が非常に重宝であるというのは良く分かる。

一方で、民間企業、特に物流関連拠点にRFIDポータルを設置できる大手企業でのニーズはどの程度のものだろうか。大きな会社の人ほど「輸送中のコンテナの中に何が入っていれば分かるといいのに」という話をしたりするのだが、まぁ冗談というか愚痴のような話であって、普通は製造システムや販売システムと物流システムのデータを正しくリンクさせるというのがまともな解決策になる。ODIN社では「民需輸送の1%でもニーズがあれば市場は広大だ」としてニーズの掘り起こしを考えているそうだが、どうなのだろうなぁ。

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2009/03/10

スマートコンテナ製品の最近の動向

最近コンテナ・トレーラーに取り付ける無線セキュリティデバイス記事が続けてRFID Journalに掲載された。この種のデバイスとしては以前にHi-G-Tek社の製品を取り上げてエントリを書いたが(The Great RFID Game)、最近ニュースになった製品は2つとも米軍が関係している。僕の研究テーマでもあり自分の備忘も兼ねて記録しておく。

一つ目のデバイスはSavi Technology社のコンテナタグにNumerex社の低軌道衛星(LEO)電話機能を組み込んだST-694 GlobalTag(RFID Journal: Hybrid Tag Includes Active RFID, GPS, Satellite and Sensors)。Numerexと言うよりもOrbit Oneと言う方が通りが良いかもしれない。Orbit Oneは商用分野でセキュリティ・トラッキング製品を提供してきたベンダーだ。記事によるとST-694 GlobalTagは米軍標準のISO 18000-7アクティブ433MHzタグと低軌道衛星電話への接続を自動的に切り替え、GPS情報や不正アクセス情報を送信する。対応のアプリケーションはどちらの送信方法で送られた情報も統一して扱うことができるとのこと。この製品は現在米軍で評価中で、商用版の価格・投入時期は未定だそうだ。Savi社は必ずしも433MHzというハードウェアにコミットしているわけではなく、SaviNetworkの存在を考えるとむしろネットワーク・アプリケーションの分野で成長を狙っていると思われるので、この種の製品の投入は遅すぎたぐらいだという印象を受ける。

もう一つはImpeva Labs社とAgility社による製品(RFID Journal: U.S. Army Achieves Real-Time Visibility of Supply Trucks Traveling in the Middle East)。この製品はGSU(Global Sentinel Unit)とRSU(Remote Sensor Unit)という2種類のコンポーネントから構成される。GSUはGPS、衛星/携帯電話、メモリーなどを持つ本体部分であり、RSUはGSUに有線・無線で接続されるセンサーユニットである。GSUは本体で取得した情報にRSUから送られてきた情報を加え、衛星/携帯電話経由でステータスをサーバに送信する。アーキテクチャとしては拡張性が高い有力なもののように見える。この製品は商業版が開発されたというニュースが一ヶ月前に流れたが(RFID Journal: ARINC, Impeva Unveil Real-Time Supply Chain Tracking Solution)、この記事は軍用版がイラク戦域に送られ、アメリカ陸軍資材軍団が365台のトラックでテスト中であるというもの。

うーん、世の中の動きは早い。頑張って論文書かないとあっというまにネタが陳腐化しちゃうなぁ…。

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2008/09/06

コンテナ監視器材に見る安全保障分野でのコンプライアンスリスク(日本物流学会全国大会発表)

日本物流学会第25回全国大会でタイトルの発表を行った。要旨は下の通りで、以前にここに書いたHi-G-Tekのエントリ(The Great RFID Game)を踏まえた内容になっている。これから論文に仕上げ、上手く受理されれば来年発行の学会誌に掲載されることになるのだが、はて。

予稿(pdf形式)プレゼンテーションスライド(pdf形式)

要旨

アメリカ同時多発テロ以降、コンテナの物理セキュリティの主目的は、物流関係者の損害の最小化からテロリズムの防止を目的としたコンプライアンスへの対応へと変化した。テロリズム防止の対策内容は普通の国民の感情的な安心・納得を中心としたものになりがちで、費用対効果の観点はしばしば無視される。また、コンテナ物理セキュリティの中核であるコンテナ監視器材は低価格化・標準化が急速に進んでおり、安全保障目的の製品と民需用の製品の区別があいまいになりつつある。現時点ではコンテナ監視器材の商業輸送分野への利用義務付け検討の段階にあるが、安全保障目的の器材が利用実績や安心感を理由として利用が義務付けられ、不必要なコストの増大や運用上の問題を生じさせる可能性がある。本稿では、民需と同じ技術を用いたコンテナ監視器材が安全保障分野で導入されている事例を紹介する。

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2008/04/21

The Great RFID Game

RFID Journal誌にアメリカのアクティブタグベンダHi-G-Tek社がカザフスタンとリトアニアにe-Sealシステムを納入したという記事が載った(RFID Seals Provide Border Security in Eastern Europe)。この案件はHi-G-Tek社からプレスリリースも出ている(Hi-G-Tek and NTC Design Wireless RFID Cargo Security System for Customs Control Agency of Kazakhstan, Hi-G-Tek and INTA Provide Wireless Trade Lane Security Solution for Lithuanian Customs Authority)。単なるRFID事例として見たなら変わったことをやってるな、という感じだろうが、RFIDと安全保障との関係に興味を持っている僕としては非常に面白いので関連情報をメモしておく。

まず、RFID案件としては以下の通り。どちらのシステムもトランジット貨物を対象にしたもので、密輸や盗難を防ぐことを目的としている。Hi-G-Tek社が納入しているのは433MHzアクティブと125kHzパッシブの両対応のe-Seal。カザフスタンではe-Sealを取り付けるのはロシアと中国の国境。高速道路に433MHzのリーダーが50km間隔で設置されており、e-Sealが壊されていた場合にはアラーム信号を検知して国境警備隊に連絡するようになっている。

リトアニアではチェックポイントはベラルーシとロシア(カリーニングラード飛地)の国境に4箇所ずつある検問所になる。リトアニアはこのほかポーランドとラトビアとも国境を接しているのだが、これら3ヶ国はEU加盟国なので厳重な国境管理がないのであろう。これら8箇所の検問所ではベラルーシ⇔ロシア間のトランジット貨物に対してe-Sealを取り付ける。輸送中のトラックが不自然に停止した場合には振動センサーが動作し始め、異常な振動が続いた場合には無線で警報を送信してパトロール中の税関職員に通知されるようになっている。

これらは国境警備システムとしてはかなり重装備だ(安定した治安システムを前提にできる先進国の案件との単純な比較に意味は無いが)。素直に考えると、記事にもプレスリリースにも触れられていないが何らかの援助を基にしているということになる。Hi-G-Tekは成立の経緯や提供サービスで非常にアメリカ政府、特に米軍との縁が深い。カザフスタン・リトアニア共にアメリカが戦略的に重視するエリアだ(麻生前外相が唱えた「自由と繁栄の弧」に含まれるエリアでもある)。これらの国のアンダーグラウンドな組織(反政府組織や犯罪組織)が貨物の横流しによって利益を得ることも密輸によって武器・麻薬などが持ち込まれることも、アメリカにとってとても歓迎できる話ではない。税関・国境警備システムを援助によって強化するというのはとても理に適った政策だ。中国やロシアは外交上は面白くないだろうが、一方で彼らも盗難や密輸の被害者でもあり、それを取り締まるということは好都合な面もある。この種の綱引きがRFIDという舞台で行われているということにちょっとワクワクする。

で、RFIDの話に戻ると、僕はe-Sealやスマートコンテナの導入は主要海上貿易国間の利用状況で決まると思っていた。が、これらの分野での導入は経済面のインパクトも多く関係者がすぐに身動きが取れる状態には無い。むしろ、今回の事例が示すように物量の少ない不安定な国々に国境警備の一環として導入されることでデファクトが先に固まってしまう、という可能性がありうるのではないか、という可能性を考えさせられた。

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2007/10/14

コンテナ全量検査法案(イラク撤退と輸入コンテナ全数検査・続編)

この記事はイラク撤退と輸入コンテナ全数検査の続編である。

報告がずいぶん遅くなってしまったが、コンテナの全量検査を義務付ける法案が2007年7月に成立した。日本では「コンテナ全量検査法案」というタイトルで報道されるが、正確にはテロ対策全般に予算をつけて導入ガイドラインを定める法案の一部という扱いになっているImplementing Recommendations of the 9/11 Commission Act of 2007(pdf)。e-Sealではなくコンテナ検査の方に行く、というのはちょっと予想していなかった。

この法案は2012年7月までにアメリカ向けの全てのコンテナを船積み前に非破壊検査を実施するようにする、というもの(大統領の判断による2年延長のオプションあり)。検査内容としてはX線によるイメージング検査とガンマ線による放射性物質検査が考えられており、現在国土安全保障省(DHS)が実施しているセキュア・フレイト・イニシアチブ(SFI)がベースになると考えられている。だが、このセキュア・フレイト・イニシアチブはまだトライアルの段階だ。現在はプエルト・コルテス、ポルト・カシーム、サザンプトン、シンガポール、釜山、サラーラの6港で部分検査が行われていて、2008年の2月にトライアルの結果が議会に報告される予定になっている。この6港を見たら、誰でも「中国はどうするの?」と思うのではないだろうか?まぁ、8割をカバーする、というならともかくとして、全量検査する、検査を受けていないコンテナは米国に入れない、と言うことになってくるのは別の次元の話だ。

このImplementing Recommendations of the 9/11 Commission Act of 2007は共和党と民主党の政争の具になっている、というのはつとに指摘されている。実行が可能とは思えないけれど誰も表立って反対はできない法案を成立させて行政府に送り込むことで与党を揺さぶりたい、というものだ。この法案の予算配分の部分ははテロのリスクを考えずに小さな州に予算を厚く配分するバラマキになっているので、予算の査定のときに大きな問題になるだろう、という指摘もある(Time The "New" Homeland Security Math)。そういう意味では法案が成立したとはいえまだ目を離せない。

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