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2015/12/31

2015年RFID十大ニュース

今年もRFID十大ニュースを書く時期になったが、うーんと唸ってしまう。ネタが無いのだ。今年は忙しくRFID関連のニュースを細かく追うことが出来なかったのも一つだが、それを抜いても、去年に新しい動きと感じられたものに大きな進展が無く、新しい動きが出てこなかったように思う。マーケットがクラッシュしたわけではなく産みの苦しみだと信じるが、なかなか辛いよね…。来年には楽しい話がたくさん出てきてほしいと思う。

☆日本でアパレル向けRFIDの認知が上昇

今年の日本でのRFID関係のニュースで一番注目されたのは、ファーストリテイリングが全商品にRFIDタグを貼付というニュースではないだろうか。5月に日経が報道して以降はほとんど報道されていないが、記事のインパクトは大きかった。また、2012年に「ビーミング・ライフストア」でRFIDの先行導入を行ったビームスも、全店舗を対象に導入を広げていることを明らかにした。海外勢ではZARAも日本の店舗にRFIDの展開を広げた。認知が上昇したことを喜びたい。

☆ビーコン系技術の発展

iBeacon市場の高い成長を受け、今年はビーコン系のさまざまな新技術が目を惹いた。ハードウェアとしてはWiFiをビーコンとして利用するためのWi-Fi Aware、ソフトウェアとしてはGoogleのビーコン仕様Eddystoneがその代表だろう。他にもアップルが位置情報アプリ「Indoor Survey」を公開したり、複数の位置情報技術を統合した製品が登場したりと、RFID/IoT界隈で一番活気のある分野ではなかっただろうか。

☆UHFパッシブも暗号化が標準へ

NXPがGen2v2の暗号化機能をAES 128bitを使って実装したタグUCODE DNAを発表した一方、NSAがRFID向けに軽量・低消費電力のブロック暗号アルゴリズムを無償で公開した。UHFでは十分な強度を持つ暗号化は難しいと思っていたけど、技術の進歩は早い。

☆NFCの制度・規格の進展

非接触決済分野でのブレイクスルーはなかなか起きないNFCだが、それ以外の分野での普及につれ、関連する制度や企画分野での進展が進んだ。その代表がAppleのNFC Forumへの参加だろう。周辺機器接続などの用途でもはや独自路線を貫くことが不利になった、という判断だと思う。そのNFC Forumで、NFC Vと呼ばれてきたISO 15693準拠のタグの読み取りが標準化(実際には現状の追認)されたことも、体制による現状への追認の一つだろう。

☆アメリカではInternet of Thingsがハイプのピークを越える

日本ではまだまだハイプ真っ盛りという感じのInternet of Thingsだけど、アメリカでは今年の夏ごろにはハイプの峠を越えたのでは、という話が出始めた。まだ「ピークを過ぎた」段階ではあるので萎んでしまったということではないのだが、今後どうなるかについては注意して見ておく必要があるだろう。

☆Wal-MartのRFIDへの取り組みの変調

ここしばらくRFID案件への取り組みが無く、特許関連の訴訟を恐れて利用を停止しているという噂も流れていたWal-Martだが、肝煎で作ったアーカンソー大学のRFIDラボがオーバーン大学に移転し移転式典にWal-Martが参加しなかったり、TycoがWal-Mart向けに専用のRFIDソリューション展示センターを開設したがWal-Mart自身はコメントを拒否したりと、いろいろ妙な動きが目立った。同社は現時点でRFID導入の牽引役ではないが、パイオニアでありアパレル個品分野での復活の立役者であった同社の現状は個人的には寂寥の思い。

☆小売店舗利用でのコンセプトの深化

少し前までは小売店頭でのRFID利用のメリットは欠品による販売機会損失の防止として語られていた。今年に入り、そのメリットがオムニチャネルのコンセプトに統合され、BOPIS(Buy Online, Pickup In Store)という単語で表現されるようになっている。アメリカでもこの単語が広く使われ出したのは今年に入ってから、日本でも今年の下旬には利用されはじめた。日本でBOPISがRFIDとどう結びついていくかは気になるところ。

☆UHFパッシブ標準化案件の国際展開

国際郵便の書留相当でのトラッキングをUHFパッシブタグを用いて安価に行うソリューションが国際郵便機構で進もうとしていたり、IATAが手荷物管理を複数の空港、エアラインと通して行う標準化のトライアルと実施したりと、今後が楽しみな案件も幾つか見られた。現時点ではすぐに大規模導入につながるものではないが、将来的な展開が楽しみ。

☆RFIDはブレイクしきれなかった

冒頭に書いた内容とも関係するが、今年12月のRFID Journal誌の社説で、RFID案件は増加しているが大規模案件の比率は低く、ベンダーは生き残りに苦労していると書かれていたことが非常に気になっている。書かれている内容は表面的には既知のものだが、同誌は直接書きづらい話をこのような思わせぶりな書き方で表現することがあるのだ。

☆それでもマーケットは成長している

IDTechEx Research社の調べによると、2015年の世界のタグ出荷枚数は91億枚で、2014年の78億枚から17%増加し、市場規模は10億ドルを突破した。過度な悲観はせず、今後もマーケット全体の成長の中で新たな商機が出てくることを信じたい。

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2015/12/25

RFID Journal 抄訳 2015/12/17号

今週の記事で気になったのはTarget社の技術デモ店舗の話です。ユースケースや利用されている技術にはそれほど新規なものはないのですが、他のテクノロジーとの組み合わせや、顧客の受容という面で、以前と変化があったということなのでしょうか。

ドイツポストのRFIDを使った国際郵便のトラッキングの話も興味深いです。RFIDを利用することで低コストでのトラッキングができるようになると、EMSや書留ではない普通のビジネスメールでも利用できてありがたいですね。

なお、元記事はこちらになります。

RFID Helps Target Transform Holiday Shopping Experience

Target社はニューヨークに新技術のデモなどを行う仮設店舗Target Wonderlandをオープンし、その中でRFIDを用いた新たな購買体験を提供しました。来店者はNFCタグが入ったストラップを来店時に手渡され、ストラップを商品展示エリアのリーダーにかざすことで買い物リストを作成、レジで商品をピックアップすることが出来ます。

In Aarhus, RFID Triggers Traffic Lights When Bikes Approach

デンマークのオーフス市では自転車にRFIDタグを貼付して道路の信号をコントロールするシステムがテストされています。自転車にUHFパッシブタグを貼付し、信号近くのリーダーがそれを読み取ることで、信号に緑に変わるよう指示が行われます。また、自転車の移動データは交通量分析のためサーバに蓄積されます。

Deutsche Post Offers RFID-based Envelope Tracking for International Mail

ドイツポスト社はRFIDを用いた国際郵便のトラッキングサービスの提供を開始しました。従来は小包や書留を対象にバーコードを用いたトラッキングサービスが提供されていましたが、RFIDラベルを用いることで拠点の通過を安価に提供できるようになります。ラベルに利用される技術はUHFパッシブで、20枚19ユーロで販売されます。このサービスは現在ドイツのみで提供されていますが、国際郵便機構(IPC)に加盟する他の国でも導入が行われる予定です。

RFID Well Suited for Lebanese Menwear Company

レバノンの紳士服メーカーPellini社はRFIDを利用して店舗の在庫管理を行っています。同社は商品にUHFパッシブタグを貼付し、ベルギーとレバノンの12店舗で在庫管理を行っています。

Registration Now Open for RFID Journal LIVE! 2016

2016年の5月3日~5日にオーランドで開催されるRFID Journal LIVE! 2016の申し込み受け付けが始まりました。今回は小売、アパレル、ヘルスケア・製薬、防衛・航空宇宙の4つの産業別トラックが提供されるほか、エネルギー、建設・鉱業、倉庫、ITなど様々な分野を対象にしたワークショップやセミナーが行われます。

RFID News Roundup

  • Kurt Salmon社とTyco Retail Solutions社が個々の顧客向けにカスタマイズしたショッピング体験のデモを実施
  • 富士通の米国子会社がIoT向けのBluetoothビーコンを発表
  • Invengo社がUHFリーダー内蔵のスマホを発表
  • Schreiner Services社がRFIDを利用した道路メンテナンスのソリューションを発表
  • IDTronic社が競技の計測やイベント管理向けにUHF RFIDソリューションを拡販
  • Lakes Region General HospitalがHugs社の乳幼児連れ去り防止ソリューションを導入
  • Gaylord Palm社のRFID部品がKaba社のドア用の鍵に採用

RFID in Health Care 2015 Report(有償記事)

RFID in Health Care 2015が12月2日・3日にサンフランシスコで開催され、100名の参加者を集めました。今回は資産・在庫管理や患者・スタッフの所在管理など、ヘルスケア分野の様々なユースケースについて発表が行われました。

IATA Event Suggests Airlines Are Embracing RFID

私はIATAが開催したRFID & Paperless Aircraft Technical Operations Conference (2015)に参加しました。昨年よりも参加人数、参加会社ともに増え、航空会社は座席や酸素ボンベの管理にRFIDを利用する方法について熱心に学んでいました。RFIDが航空業界で幅広く利用されるようになるのは時間の問題でしょう。

New FCC Rules Could Threaten RFID, IoT Development

米国連邦通信委員会(FCC)では機器認証を行える認証機関を相互承認協定(MRA)を持つ国の機関に限るという制度変更を行いました。これはIoT機器を海外で製造しているベンダーに不利になる可能性があります。

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2015/12/19

RFID Journal 抄訳 2015/12/10号

今週気になった記事は編集後記。アメリカでのRFID導入で大規模導入が少数先進ユーザーから広がらず、RFIDの普及の本格化は2017年以降になる。ベンダーはそれまでの間Cash Burnに注意して過ごすべし、という内容で、少し前には今年にも本格的な普及が始まると言っていたのにと、論調の変化に驚きました。アメリカのRFID業界では雰囲気が変わってきているのでしょうか。

事例で興味深かったのはショッピングモールで利用しているというWi-Fi/Bluetooth/UWB複合タグ。価格の問題が無くアプリ上で統合して扱えるのであれば複数の測位手段を併用して悪いことはありません。「どの技術が優れているか」ではなく「技術をどう組み合わせるか」が今後ますます重要になってくるのでしょう。

なお、元記事はこちらになります。

Decathlon Sees Sales Rise and Shrinkage Drop, Aided by RFID

フランスのスポーツ用品チェーンDecathlon社はRFIDを導入して昨年度の売り上げを11%向上させました。同社は全世界951店舗と43ヶ所の倉庫で在庫管理と盗難防止のためにUHFパッシブのRFIDソリューションを導入しました。ソリューションを開発したのはCheckpoint Systems社です。

Kiev Shopping Center Tests Leantegra's RTLS-Beacon Solution

キエフのショッピングモールArt MallではRTLSを用いた来訪客動向のモニタリングシステムのパイロットを実施しています。これはLeantegra社が開発したWi-Fi/Bluetooth/UWB複合タグを利用するもので、モール内部で来訪客や展示品がどのように移動したかをモニタリングすることができます。

Taiwanese Auction Company Sold on RFID

台湾のリサイクルブランドショップであるバン・マスターグループは商品の管理にRFIDを利用します。同社では商品にUHFパッシブタグを貼付し、オークションなどへの出展や棚卸しなどの管理に利用しています。システムはEPC Solutions Taiwan社が開発しました。

Municipalities Use RFID-based WISTAR to Take Out the Trash

ごみ収集容器のメーカーSSI Schaefer Systems社はSeedSpark社と共同で収集容器の管理をクラウド上で行うソリューションWISTARを提供しています。このソリューションは収集容器に貼付したUHFパッシブタグをハンドヘルドリーダーで読み取り結果をクラウドに送信して管理するもので、全米の複数の都市で55万個のコンテナが管理されています。

RFID Professional Institute to Sponsor 10th Annual RFID Journal Awards

RFID Journal LIVE! 2016で発表される第10回のRFID Journal AwardsのスポンサーにRFID Professional Instituteが決定しました。

RFID News Roundup

  • Smartrac社がImpinj Monza R6-Pを搭載しリテール向けに最適化したインレーを発表
  • Touch Technologies社がiPhoneケース型のUHFリーダーr-touchを発表
  • DHL Global Forwarding社が冷蔵輸送トラッキング用のモバイルアプリを発表
  • Checkpoint Systems社がEASとUcode 7 UHFパッシブの複合タグUNOを発表
  • Redpoint社が建設現場の安全、生産性向上用途のRTLSバッヂの新製品を発表
  • Phychips社がUHF RFIDリーダーモジュールの新製品を発表
  • IDTronic社のスポーツ用RFIDリストバンドを発表

RFID Journal LIVE! Europe 2015 Report(有償記事)

2015年11月9日・10日にロンドンで開催されたRFID Journal LIVE! Europe 2015の参加者は225名で昨年より10パーセント増加しました。会場で報告されたプレゼンテーションを公開します。

It's the Best of Times-and the Worst of Time

現状のRFIDの導入は一部の先進企業とそれ以外の企業に二極化しています。RFIDを大規模かつ有効に利用している小売業・製造業は数えるほどしかありませんし、RTLSシステムを導入した病院の比率は5%以下です。RFIDの導入は2017年以降に本格化すると考えられ、小規模なベンダーはそこまでに手元資金を使い果たさないよう賢く行動する必要があります。

Planes, Trains and Connected Automobiles: Globalizing the IoT Requires Localization

IoTを世界のマーケットに展開するためにはローカライズが重要です。言語や単位の違いの他にもさまざまな文化の違いがあります。例えば照明のスイッチはアメリカでは上げて点灯ですがヨーロッパでは下げて点灯です。このような細かい点も製品に反映させる必要があります。

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2015/12/13

RFID World Watcher Monthly November 2015

今月は久しぶりに特集記事入り。個人向けIoTでのアイデンティティ管理に関するものです。今後大きな注目を集めるようになるのでは。ニュースでは製品紹介記事の比率が高かったです。

RFID World Watcher Monthly November 2015 (PDF形式、350KB)

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2015/12/10

RFID Journal 抄訳 2015/12/03号

今週はいろいろな分野に目配りしつつ手堅いユースケースをバランスを取って取り上げた、という感じの内容でした。

記事の中で気になったのはRalph Lauren社のニューヨーク五番街店でのRFIDスマートミラー導入。ハードウェアでの困難は現状では大きくないと思うのですが、以前に期待されていたほどには導入の話を聞かないのは、具体的なユースケースの不足なのでしょうか。

RFID Journal誌の読者のプロファイリングの記事も面白かったです。製造業やリテールが伸びているのは想定通りでしたが、航空産業で減少しているのは意外。また北米以外の読者が半数近いというのも驚きでした。

なお、元記事はこちらになります。

Barilla Uses RFID to Automate Home-Cooking

イタリアの食品メーカーBarilla社はRFIDを用いてオーブンにレシピの自動設定を行うソリューションを開発しています。これは、食品の箱にレシピを格納したHFパッシブタグを貼付し、そのタグをオーブンの外側に取り付けたリーダーに近づけて読み取らせるものです。

Moods of Norway Opts for Checkpoint RFID Labels, Tests Fixed Readers

ノルウェーのアパレル小売りMoods of Norway社は店舗での在庫管理のためにRFIDを導入しました。店舗での在庫が正しく把握できるようになったためオンラインでの注文も店舗から発送できるようになり、オンラインでの売上高が20%上昇しました。同社は物流センターへのRFID導入のパイロットを実施しています。

U.K. Company Finds RFID Chemically Attractive

イギリスの化学品メーカーIndustrial Chemicals社は輸送用タンクの管理にRFIDを利用しています。イギリスでは化学品輸送タンクの利用履歴の記録が義務付けられており、同社はこの作業を手作業でラベルを転記することで行ってきましたが、作業に時間がかかったりラベルが擦れて読めなくなったりという問題がありました。ソリューションはCoreRFID社が開発し、利用しているタグはOmni-ID社のUHFパッシブタグです。

Polo Ralph Lauren Store Gets Smart Fitting Rooms

Ralph Lauren社はニューヨーク五番街店にRFIDに対応したスマートミラーを導入した試着室を設置しました。同店の商品にはUHFパッシブタグが貼付されており、商品を試着室に持ち込むと関連情報が表示されます。

Chinese Nuclear Plant Tracks Workers With RFID

中国の秦山原子力発電所ではスタッフの所在をRFIDで管理しています。原発のスタッフはUHFパッシブタグが貼付されたバッヂを身に着け、特定ゾーンにいることをリーダーが読み取ることで、非常時の所在管理が行われます。システムはSun International社が開発しました。

GasBuddy Offers Beacons, Dashboard to Gas-Station Convenience Stores

ガソリン情報の配信会社GasBuddy社はガソリンスタンドでの特売情報(ガソリン以外の品物)の配信にBluetoothビーコンを利用します。同社はWebやスマートフォンの専用アプリで情報を提供していますが、ガソリンスタンドでの商品販売情報の提供が不十分であり、同社にとって商機であると判断しました。同社は1,100ヶ所のガソリンスタンドにビーコンを配布済みで、年内に5,000ヶ所に配布できるだろうと予測しています。

RFID News Roundup

  • Bristol Uniforms社がHarland Simon社のRFIDソリューションVeroを採用
  • Smartrac社が車両などの水漏れを判定するSensor Tadpoleタグを発表
  • Nedap社が盗難防止用の天井型RFIDリーダーを発表
  • MOCAP社とZebra社がプロフットボールでのトラッキングとデータ分析で協業
  • Ascom社とEkahau社がヘルスケア分野向け製品の互換性を発表
  • ドイツのホテルチェーンPrizeotel社がASSA ABLOY社のMobile Accessソリューションを導入

What You Need to Know About RFID Patient-Management Solutions(有償記事)

RTLSを利用した病院向けの患者所在管理システムは、患者の安全やオペレーションの効率を向上させることができ、病院の評判を上げることに有効です。

Using RFID to Predict the Future

RFIDは95%を超える読み取り精度を持ち、管理対象を個別に把握することが出来ます。この特徴を生かし、航空会社や製造業、店舗など様々な業界でRFIDを用いて管理レベルを引き上げることが可能になりました。

The Changing RFID Landscape

RFID Journal誌の読者データベースはRFID業界の動向を知る手掛かりになります。読者の業界を2009年と2015年で比較すると、製造業や小売業のシェアが増加した一方、航空宇宙産業や日版品メーカーのシェアは低下しています。地域で比較すると北米で低下し欧州・アジアで上昇しています。

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2015/12/06

IoTの個人向けユースケースとアイデンティティ管理

この一年はバタバタしていて特集記事を書く余裕が無く、Internet of Things(以下IoT)のブームに乗り損ねてしまった。日本のメディアではまだまだ旬のテーマだが、RFID Journal誌では今年の夏の時点で一般層の関心が失われつつある(ハイプの山を越えてしまった)という指摘がなされている(The Internet of Hacked Things)。

個人的には産業向け、特に製造業向けのIoTの利用はハイプが剥落するのも早いだろうと予測している。日本ではインダストリー4.0との絡みで大きな注目を集めているが、この分野で取りざたされているユースケースは以前からアクティブ/パッシブのRFIDで実現されていたものばかりで、IoTが新たにもたらした技術要素もほとんど存在しない。「インダストリー4.0ではIoT技術によりサプライチェーン中の複数の企業が生産情報を共有し生産性が劇的に改善する」と言った記事を読むと初期のWal-Martブームとのあまりの類似に苦笑していまう。インダストリー4.0はドイツ政府としての取り組みだから大丈夫?若い人は知らない(そして年寄りは忘れてしまった)だろうけど、Wal-Martブームの頃には国防総省マンデートとかe-ペディグリーとかの公的な取り組みもあってだな…。FP7などの政府主導のRFID技術開発・普及支援プログラムの実績を見るとヨーロッパの支援プログラムがアメリカ以上に信用できるとは思えない。

その一方で個人向けのIoTについては全く状況が違うと考えている。画面とUI、インターネット接続とBluetooth PANのハブとしての機能を兼ね備えた携帯デバイスであるスマートフォンで何ができるかについてはコンセプトの開発もまだ途上にあるのではないだろうか。個人向け用途では尖ったユースケースが積極的に公開されていくことも大きい(この点は製造分野でのユースケースが秘密にされがちなことの対極にある)。

個人向けのIoTユースケースを拡張していくなかで重要になってくるのがセキュリティとプライバシーの確保をいかに利用者に負担をかけずに行うかという点だ。ウェアラブルデバイスに代表される個人向けのIoT機器はプライバシー性の高い情報を扱う一方で「モノ」として自然に扱えなければならないという制約を持っている。スマートウオッチや、ましてBluetoothヘッドセットで、十分な強度を持つパスワードを入力するというのは、多くのユーザーにとって耐えきれない作業だろう。また、個人が何種類ものIoT機器を持つ場合に、それぞれのセキュリティ管理をどのように行うのかという問題もある。同一の認証を用いた場合には一つの機器のセキュリティが破られると全体のセキュリティの危機になるし、かといって個別にセキュリティ管理を行うのは複雑すぎる。更に、個別のIoTデバイスがスマホとだけ通信するのではなく、IoTデバイス同士が通信する場合にそのセキュリティをどうするのか、となると、管理の手間はデバイスが増えるにすれ爆発的に増加する。

個人向けIoT機器のセキュリティ・プライバシー管理についてはアメリカでも議論が始まったばかりのようだが、一部の議論は一般向けに発信され、場合によっては実用化されてきている。これらはアイデンティティ管理(Identity Management, ID)もしくはアイデンティティ・アクセス管理(Identity and Access <anagement, IAM)と呼ばれている。

その一つとしてForgeRock社という企業の取り組みがある。同社のコンセプトについてはRFID Journal誌で記事になっているが(When Identity Management and the Internet of Things Collide, New Opportunities Emerge)、初期のソリューションとしてスマホをドアキーとし、かつカーナビやオーディオとも連携して情報を収集するソリューションをトヨタと提携して提案している(ホワイトペーパー)。また、Gartner社もこのテーマにつき議論を始めているようだ(Gartner: Internet of Things will redefine identity management)。

この分野は個人向けIoTの普及にとってボトルネックになりうる部分だが、同時に企業にとっては巨大なビジネスチャンスになりうる分野でもあるだろう。今後も動向に注視していきたい。

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