« 2014年1月 | トップページ | 2014年3月 »

2014/02/18

プリンテッドRFIDの現状

1月の末に東京大学などのグループが印刷で高性能有機薄膜トランジスタ回路を開発し、それを用いたHF帯のRFIDタグを製造、個体識別信号の伝送に「世界で初めて成功した」というニュースが流れた(EETimes Japan:塗って乾かすだけの有機半導体でRFIDタグの動作に成功)。この報道を受け、「いよいよRFIDが印刷で製造できるようになった!」といった反応も一部で見られたが(例えば ASCII.jp:NEDO/東大など、世界初の印刷だけでRFIDを製造する技術を開発)、今回の研究は有機半導体で世界初、ということで、シリコンインクを使ったプリンテッドRFIDにはずいぶん前から成功事例がある。

そしてそのニュースが流れた直後、RFID Journal誌に、プリンテッドRFIDのパイオニアであるKovio社がノルウェーのラベルメーカーThinfilmに買収されたという記事がベタ記事で掲載された(RFID Roundup内のThinfilm Acquires Kovio, Opens Silicon Valley NFC Innovation Center)。記事を読んでみるとThinfilmがKovioのスタッフと知財を引き継ぎ、シリコンバレーに研究センターをオープンするという、プレスリリースを淡々と引き写した内容。Kovio社はRFID Journal誌にも過去何度も掲載されていたが、それらの記事への言及は無く、また同社の現在の事業についてもほとんど説明されていない。はて、何か妙な感じがすると思い、プリンテッドRFIDの現状を確認してみることにした。

まずはプリンテッドRFID業界の流れ。印刷技術を用いてRFIDタグを製造する技術はWal-Martブームの頃から未来の有望技術としてRFID Journal誌などに掲載されていたが、実際に製品化が見えてきたのは2007年ごろ、上記のKovio社のほかPolyIC社などが開発を先導していた。PolyIC社については具体的な製品化・事業化の報道は見かけなかったが、Kovio社は具体的な製品化を進めており、2008年秋のRFID Journal主催イベント"EPC Connection 2008"でHF帯で動作するプリンテッドRFIDタグの発表を行った。僕はこのカンファレンスに参加したのだが、製品の発表だったにも関わらずプレゼンだけで実際の製品の展示は無く、ちょっと怪しげな内容だったことを覚えている(RFID a GoGo!:EPC Connection 2008 (Day 3))。

ただ、その後2010年の6月に同社のプリンテッドタグがにロサンゼルス交通局の切符として採用されたという報道がなされ(RFID Journal:Printed-Electronics RFID Tags Debut ※有償記事で要登録)、いよいよ本格的な普及が始まったのかと考えていた。だが、その後は大規模な導入事例を見る機会は無く、しばらくこの分野についてはフォローしていなかった。

改めてKovio社の動きを追ってみようと同社のプレスリリースのページを確認してみると(現在はThinfilm社のサイトへリダイレクトされるようになりアクセス不可能)、2010年から2012年まで全くプレスリリースを掲載しておらず、その後のプレスリリースや現在の事業説明についても一切ロサンゼルス交通局の案件には触れられていない。そしてThinfilmのプレスリリースにはKovio社から引き継ぐ内容として「年間数億枚の生産が可能な導入済みのパイロット生産設備」を挙げている。年間数億枚というのはパイロットの生産規模としては考えづらい。これらを考え合わせると、Kovio社とロサンゼルス交通局の案件は、実際に設備を建造するところまで進めたものの何らかの理由で破談、同社は2012年までかけて敗戦処理を行い、その間のことは「なかったこと」にしていたのだろう。RFID Journal誌のよそよそしい態度もこれで納得がいく。

2012年以降、同社はNFC Barcodeというブランド名でISO 14443互換を謳う製品をカタログに載せている。書き込みができないのは2008年に発表したプロトタイプと同じだが、読み取り専用のユーザメモリのサイズは拡張されている。ISO 14443のアクセスプロトコルは通常のHFタグ用のISO 15963のそれよりかなり複雑なはずだが、その後の技術改良で対応できるようになったのだろうか。なお、Kovio社及びThinfilm社のサイトではNFC Barcodeが実案件で採用されたという記述は見つけられなかった。

プリンテッドタグはRFIDの一段の普及、低価格化の切り札でもある。3Dプリンタなどプリンティングによる生産が注目を集めているし、それらと統合された用途もビジョナリーによって様々なものが語られている。そろそろ実際の導入事例が出てきても良い時期だろう。それがどんな形になるか楽しみだ。

最後に補足として。本エントリではRFIDチップをプリントで製造することについて記述したが、プリンテッドRFIDとしてはタグのアンテナをプリントで製造するという切り口もある。こちらについては、現状では銀ナノインクを使った技術については既に商用化されており、銅やアルミニウムを使った技術についても開発が進んでいる(産総研プレスリリースフレキシブル基材上にUHF-RFIDアンテナを印刷形成)。

| | コメント (3) | トラックバック (0)

2014/02/08

RFID World Watcher Monthly January 2014

今月の特集はe-ペディグリーの総括。業界ではきちんと総括されていない話だったのでこうやって取り上げる機会があり嬉しい。事例紹介はクリスマス休暇があったのでちょっと少な目。 

RFID World Watcher Monthly January 2014 (PDF形式、400KB)

| | コメント (0) | トラックバック (0)

« 2014年1月 | トップページ | 2014年3月 »