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2012/11/25

アパレル分野でのRFID利用トレンドの変化

今年の夏から秋にかけて日本のアパレルRFID案件で目立つ事例が二つ報道された。ビームス(ITPro:富士通がRFIDを使った商品管理システムをビームスに納入、物流コストを半減)のものとユナイテッドアローズのもの(ITPro:ユナイテッドアローズがRFIDシステムを試験導入、渋谷と新宿の2店で)だ。どちらも知名度の高いブランドだし、導入内容も店舗業務全体をカバーする野心的なものだが、少なくとも一般メディアやIT系メディアでの反応は薄い。

思うに、反応の薄い原因は「海外でのRFIDのアパレル店舗での利用が進んでいるのは従業員のレベルが低いからで、日本では条件が違うので参考にはならないだろう」という認識が今でも強いからではないだろうか。だが、この認識は現時点では必ずしも現状に即していないと思う。RFID側の技術の進歩や経験の蓄積などの変化もむろんあるが、より大きいのはアパレル小売りを取り巻く環境が過去のブーム時から変化していることで、それに対応してRFIDシステムに求められる機能が変わってきているのだ。本稿ではそのあたりの状況を報道や研究が多いアメリカの事例を中心に整理したい。

アメリカのアパレル業界で最初にRFID実導入の動きが出てきた用途はサプライチェーン利用だった。実証実験レベルでは店舗の合理化やカスタマーエクスペリエンスなどのテーマも取り上げられていたのだが(例えばMetroの百貨店部門Galeria Kaufhofでは当時想像しうるほとんどの用途がカバーされていたと思う)、その中でサプライチェーンへの取り組みが最初になったのは、一つにはWal-Martのサプライチェーンプロジェクトがまだ生きていたこと、そして店舗内での利用については顧客のプライバシー問題が大きな話題になっていたことが原因だったのだろう。

この時期の典型的なユースケースは検品の自動化。段ボールに入った衣類を開梱せずに検品できるため、省力化になるだけではなく再梱包漏れや盗難などのリスクも低下するというものだった。

だがこの用途は最近ではあまり導入時の主要な要素とはみなされていないようだ。当時のフィジビリティスタディではそれなりの投資効果があったはずなのだが、これだけの用途のために新たな技術要素を抱え込むことを許容できる企業は限られているのだろう。

次に大きな注目を集めた分野は店頭での欠品防止。SPAの有名ブランドAmerican Apparelがこの用途を中心に据えた導入プランを2008年に打ち出したことで注目を集めることになった。

アパレルは一般消費財に比べて商品寿命が短く、販売機会を失う損失は大きい。また、小品のサイズ違いは売場をぱっと見ただけでは分かららず、在庫を把握するためには棚卸作業が必要になる。このため、RFIDを使って店頭在庫を日次で(場合によっては日に何度も)掴むことには大きな価値があり、さまざまな調査機関が具体的な効果を検証したレポートを出している。

American Apparelではリーマンショックの影響を受けたりアプリケーションを変更したりしたため導入は遅れたが(参照:American Apparel店舗内RFIDシステムの現状)、その後Wal-Martが2010年にアパレル部門で個品タグ付けを導入することでこの分野での利用がアメリカでブレイクし(参照:Wal-Martの三度目の正直(Gen2マーケットのブレイク))、多くの大手全国チェーンが追従しつつある(参照:アメリカのアパレルRFID導入状況)。

ここまでの話は日本でもある程度知られており、日本では店舗の管理レベルが高いためこれらの用途でのRFIDの利用ニーズは少ない、という認識につながっていると思う。

だが、アメリカでのRFID利用は徐々にこの先に進みつつある。アメリカに限らない話だが、アパレル小売を取り巻く環境が大きく変わってきたからだ。

最初の大きな変化はオンラインショッピングの普及だ。今ではリアル店舗ではオンラインショップとの差別化のため、リアル店舗でしかできないサービスを従来以上に強化しなければいけなくなっている。これらはもちろん以前から重要なポイントだったが、他のポイントで頑張ってもオンラインショップに勝てないとなればその相対的な重要性が変わってくる。

リアル店舗でしか出来ないものの代表は店員による接客だろう。このため、顧客が店内にいる時間、店員と応対している時間に出来る限り密度の高い応対を行う必要があり、ここでRFIDを活用することができる。例えばレジでのRFIDでの利用。値札がバーコードであればどうしても読み取りの際に顧客から視線を外す必要があるが、RFIDタグであれば精算中も常に顧客と目を合わせながら接客できるようになる。

また、顧客を満足させられる接客が可能な店員の囲い込みにもRFIDは有効だ。American Apparelは店舗RFIDシステムの効果として店員の定着率が向上したという点を挙げている。優秀なスタッフが競合店への転職を考えていても、転職先でまた手作業で棚卸をすると思うと嫌になって思いとどまるというのだ。日本では優秀なスタッフは黙々と棚卸をやるかもしれない。だが、それが楽しいと思っているか、もっと接客や商品の勉強に時間を割きたいと思っていないかはまた別の話だろう。

最近生じた更に大きな変化はスマートフォンの普及。ネットからリアル店舗への誘導、いわゆるO2Oという文脈で語られることも多いが、リアル店舗で買わせる決断をさせられなかった場合にはスマホでそのままネットショップにアクセスされてしまう、リアル店舗のショウルーム化の問題が発生する。おそらくショウルーム化問題は完全に避けることはできず、解決策はリアル店舗とオンラインショップを共に運営し、両者の顧客体験を一体化させることで販売機会の取りこぼしを避けるということになるだろう。

その切り札の一つとして考えられているのがNFCの利用だ。商品にUHFとNFCの両方のタグを取り付けることで、NFCタグをスマホの専用アプリで読み取らせると特別なクーポンを発行したり自分のサイズの有無を確認したり、店舗で在庫が切れていたり持ち帰りたくない場合にはオンラインショップで購入することができる。あるいは顧客が自分のスマホで商品を決済して店員とコンタクトしないまま店舗から持ち帰ることも可能。この辺りのエクスペリエンスを現時点で最も先進的に実現しているのはApple Storeだろう(EnterpriseZine:IBMのPOS事業売却から考える「小売業の未来」)。

こういう操作はバーコードでも可能だと思うかもしれない。だが、顧客にとってのエクスペリエンスはバーコードとNFCでは全く異なる。店員にとっては必要な業務なので両者を作業量で比較することが出来るが、顧客にとっての比較の基準は楽しいか楽しくないか。楽しくなければ顧客には使ってもらえない。

このような分野でのRFIDの利用はアメリカでも始まったばかりで、大きく報道されている事例はJ.C.Pennyぐらい、しかもまだ本番稼動していない(参考:J.C.Pennyの全店舗・全商品RFIDタグ付け)。なのでこのコンセプトが日本でまだ知られていないのはやむをえない面もある。だが、この分野でのRFID利用の目的は店舗の効率化ではなく顧客の囲い込みを行うものであるため、他社での試行錯誤が終わりさて自社でも導入となったときには顧客がすっかり囲い込まれて手遅れになっているかもしれない。この分野での利用は日本にも遅かれ早かれ上陸するだろう。その時に慌てないで済むよう、動向調査程度は必要になるのではないだろうか。

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