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2012/05/27

ディップスイッチのRFID化

RFIDの大きな特徴としてデータの書き込みが可能というものがある。データの書き込み先は当然メモリであるため、書き込まれたデータをメモリから読み出して利用するという使い方はかなり前から構想されていた。だが、それらのほとんどはコンセプトレベルに留まり、実用化されることは無かった。その原因はユースケースの欠如だと思う。器材がメモリを読み出して利用しようというからにはその器材は電子回路と電源を搭載しているわけで、素直に考えればその電源を利用して通常の無線機能(WiFiなりBluetoothなり)を利用すればよい。通信プロトコルにRFIDを利用する必要は無かったのだ。

最近、パッシブGen2チップで標準的なシリアルバス(I2CやSPI)を搭載したモデルが登場し、新たな用途が開拓されつつある。それは電子機器のサプライチェーン中での設定。従来は梱包を開きディップスイッチの切り替えで行なっていた設定をタグメモリへの書き込みで行なう。また、設定作業を行なうまでは起動できなくして、盗難を抑止する効果もある。言うまでも無くケースを開いて細かい操作をすることに比べハンディリーダを当てて書き込みボタンを押すほうが作業負荷は少ない。この用途では電子機器の通信機能は電源が投入されていない状態でずっと待ち受けを続けなければいけないので、パッシブタグになって実用的に利用できるようになったのだ。

実用化事例としておそらく最初に出てきたのがIntermec社のラベルプリンタPM43とPM43c。SPIポートを搭載したEM Microelectronic社のEM4325チップを搭載し、デフォルト用紙やイーサネット設定などの設定時間を従来の20分の1に短縮したそうだ(RFID Journal:Intermec Simplifies Printer Configuration Via RFID)。この事例で利用されているEM4325チップには4キロビットのメモリが搭載されており、また電池を補助的に用いセミパッシブモードで動かせば書き込み距離を長く取ることが出来る。

一方で、今年のRFID Journal LIVE!でIntelがぶち上げたのが、今年後半に出荷するWindows 8タブレット用の基盤にバス付きGen2チップを組み込むという計画。プレゼンテーションを見る限りではサプライチェーン中での盗難の抑止に重点を置いているようだ。利用されているチップはImpinjのMonza X Dura。こちらはI2Cバス搭載で、メモリが2キロビットと4キロビットの2つのバージョンがある(RFID Journal:Impinj Releases Embedded RFID Chips for Consumer Electronics, E-Labels)

この種の製品の走りはNXP社が2010年に発表したUcode I2Cで(RFID Journal:NXP to Unveil New UHF, HF Chips)、事例がニュースに流れないのでどうしたのかと思っていたところこの春になりいろいろな話が出てきて一気にホットなトピックになった。

家電機器はプリンタやタブレットに限らずどんどん高機能化・ネットワーク化が進みソフトウェアに依存するようになってきているので、外部から設定変更が出来る、簡単なパッチなら当てることが出来るというニーズは強いはず。それでもこれだけの用途であれば決定力に欠けるかもしれないが、家電機器の本体にRFIDチップを組み込み個体管理をしたいというニーズも以前からずっと存在してきており、この2つの用途を組み合わせればいよいよ家電製品のソースタギングが実現するかもしれない。期待をこめて見守りたいところ。

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2012/05/13

RFIDソリューションEXPO 2012

今年もRFIDソリューションEXPOが開催され、5月9日に出かけてきた。会場はかなりの混雑だったが併設の他の展示会のもので、RFIDソリューションEXPOのブースはかなり端に追いやられて客の導線から外れていた印象。今年はM2MだとかスマホだとかRFIDの近接分野の展示会も同時開催されていた(但しそれらの中でのRFID/NFC関連の展示は少ない)ので、上手にコーディネートすればもっと盛り上がったのにと残念に感じた。

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【講演】

RFIDソリューションEXPOとしての講演は今年も2本。一つ目の講演はRFIDを排出権の小口流通に使おうという実証実験に関するものだったのだが、率直に言って内容が理解できなかった。RFIDをクーポンに埋め込み物理的に回収することが新しいというのだが、IDだけで決済できない理由(2Dバーコードで今でも出来ているのに!?)とか、RFIDを使ってどのようなオペレーション上の優位が得られるのか(偽造防止か、読み取りオペレーションの迅速化か)の話が全く無く、消費者が排出権を買うことに積極的だとかいうRFIDと全く関係の無い話ばかりをしていたのだ。こういう講演をさせるべきではないと思うのだが…。

一方でもう一つの講演、住金物産の山内氏による「RFIDはアパレル生産性向上の救世主となりうるか?」は非常に充実した内容だった。日本のアパレル業界を取り巻く状況を整理し、それを踏まえてRFIDをどのように利用していくかを述べた内容で、聞いた人全てが何がしかの気付きを得られたと思う。個人的に興味深かったのはI.T.'S.internationalの事例で、3年前の原宿店への展開は知っていたのだが現在は全国13店舗に導入が完了しており、しかも生産委託先からレジまでの完全な一貫利用、そして試着室にリーダーを置いての試着履歴まで取得しているとのこと。ここまで念の入った利用は世界的にもまだそれほど多くないはず。もっと世界に向けて発信していくべきではないだろうか。

【電子ペーパータグ(TOPPAN FORMS)】

上にも述べたように今回の展示スペースはやや少なめだったのだが、加えて各ベンダーの展示がUHF新周波数対応に集中していてあまりワクワクするようなものが少なかった。このエリアで今回一番目を惹いたのがTOPPAN FORMSのバッテリーレス電子ペーパータグ。製品自体は2年前に出たものだが着実に進歩しており、クレジットカードサイズの製品で単価が1,500円(大ロット時の値引きあり)まで下がってきたとのこと。また、従来は独自プロトコルのHF対応だったのが、ISO準拠への目処がついたとのこと。こちらも楽しみ。

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【ウェアラブルRFIDリーダー"TECCO"(ゴビ)】

もう一つ、展示で目立っていたのがこの手甲型RFIDリーダー。手袋っぽい部分がアンテナで掌の上下が読み取り範囲になる。HFだったり指での操作が出来なかったりとちょっと残念な部分もあるが、ともかくこの製品デザインにはインパクトがあり多くの人が足を止めていた。

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【低消費電力WiFiウェイクアップモジュール(NEC)】

同時開催のワイヤレスM2M展にも足を運んでみたのだがこちらのエリアの展示のメインはテレメトリングで、WiFiやFOMAを利用する製品がほとんど。そんな中で目を惹いたのがNECが出展していた無線LAN用の低消費電力ウェイクアップモジュール。消費電力1mWで2.45GHz帯の信号待ち受けを行い、信号を受信したら待機していたWiFiモジュールを起動するというもの。特殊な信号パターンを利用することで誤動作を防止するが、その信号は既存の無線LAN機器上で動作するソフトウェアから送信できるとのこと。2.45GHz帯の混信って結構シビアなので実環境でどれぐらい信用できるかは試してみないと納得できないが、本当であればワイヤレスセンサーでWiFiを利用する優位性がぐっと高まる。

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2012/05/05

RFID普及のためのもう一つのアプローチ

今年のRFID Journal LIVE!も無事に終わった。終了後の報告の中で目に留まったのが、参加者数が2500人ほどで2010年からずっと横ばいだという話(RFID Journal: More Industries Approach the RFID Inflection Point)。この2年の間、アメリカではアパレル個品管理向けに大規模な導入案件が動いているはずだし、実際にABI Researchの調査によると向こう5年間年率20%の成長が続く(The RFID Market Will be Worth over $70 Billion Across the Next Five Years)。

そうであるのにRFID Journal LIVE!の参加者が増えていないということは、RFIDの案件が横に広がっておらず、規模が大きくなりながらも同一の業界、同一の関係者の中でグルグルと廻っている可能性がある。実際、6年前に始まったCompTIAの業界標準RFID資格・RFID+も2011年末で試験実施を終了している(参考記事)。

これは決して悪いことではない。従来は充分な売り上げの立たない小さな案件を廻して食いつないでいたRFID業界人たちがようやく安定したキャッシュフローを得られるようになってきたということでもある。だが、RFIDはもっともっとさまざまな分野で使われて世の中を変えていくはずのテクノロジーで、特定分野の人しか興味を持っていないというのはよろしくない。RFID Journalもそのような危機感を持っているのだろう。少し前はあれほど「Low Hanging Fruits」(すぐに成果を出せるこなれた案件)を強調していたのに、最近はキラーアプリが成熟していない分野を幅広く取り上げるようになっている。今年のRFID Journal Awardでも、従来RFIDの導入を牽引してきたサプライチェーン、アパレル個品、e-ペディグリーなどの案件がほとんどノミネートされなかった。

この問題は日本で活動する僕らにとってはより深刻だ。もしアメリカ内部ですらRFID案件の横展開が起こらないのなら、アメリカから日本への案件の横展開はなおさら起きないのではないか?そうであるならば、RFIDの普及のきっかけになる何か別のアプローチを試みなければならない。

心強いことに実際に日本ではその種のアプローチが動きつつある。今回の記事では2つの動きを紹介したい。

その一つが1月末に八重洲にオープンしたRFID/NFC Real Touch Shop(リンク日本橋経済新聞の紹介記事)。RFID専門のリアル店舗は世界的に見ても非常に珍しいと思うが、より重要なのはこの店舗が小口案件に特化した店舗であるということ。実は以前はRFIDタグを小ロット(数十枚)で買うことは非常に困難で、タグベンダーの担当者と面識を得てサンプル用という名目で入手するぐらいしか方法が無かったのだ。その後、エース工業が小ロットでの通信販売の対応を開始し、その反響を受けてオープンした実店舗がこのRFID/NFC Real Touch Shopということになる。

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必ずしも広くは無い店舗だが、店内には珍しいタグや面白いソリューションがずらりと並ぶ。そのほとんどが自腹で買って遊んでみることができる構成・価格。常駐しているスタッフは並んでいる製品はもちろんのこと国内外のRFID製品やソリューション動向に精通している。彼らが言うには、RFID/NFCの小口のタグを売って儲けを出すことは考えていない、それよりも技術好きの人々が自分で買って試してみたいというニーズに応えたいと言う。始めは扱いやすいNFCから入ることになるだろうが、そのうちより長い読み取り距離、より大きな同時読み取り性能とどんどんニーズが高くなってくる。そうやって企業の中に「RFIDをもっともっと使ってみたい人たち」を増やしていきたいのだと。

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ここしばらくのNFC対応Android製品の市場投入により、来客数は当初の見込みを超えて増加しているのだとのこと、とても頼もしい。

もう一つはNFCアイデアソン・ハッカソン。AndroidのユーザーグループNFCラボが主催するもので、アンドロイドのNFC機能を使ったアプリケーションのアイデアを出すアイデアソン、それを1日の開催時間で実際に実装してしまう(!)ハッカソンというイベントが、過去に2回行なわれている(日経ITPro: NFCの可能性に挑戦したアイディアソンとハッカソン)。僕も4月13日に開催された第2回のアイデアソンに参加したが、AndroidからNFCの世界に興味を持ったハッカーたちが多数いてとてもとても新鮮だった。

上記のように草の根でNFC/RFIDを面白がる輪を広げRFIDに理解と好意を持つ層を開拓していくのはRFID普及へのもう一つの重要なアプローチだと思う。海外のエンジニアコミュニティで、メンバーが将来性のある技術に向け綺麗に組織・動員されて動いていくのは時々うらやましく思えることがあるけれど、RFIDではどうやらそれは上手く廻っていないようだ。ならば、日本なりのやり方でコミュニティを広げていこうじゃないか。僕もこのブログをもっと頑張ろう。

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2012/05/04

RFID World Watcher Monthly March/April 2012

4月はとうとう記事を投稿できなかった。あれこれネタは仕込んでいたのだが…、お恥ずかしい限り。代わりというわけでは無いがRFIDニュースについて3月と4月の合併号とした。RFID Journal LIVE!があったため新製品関連のニュースがかなり充実している。来月以降は毎月早い時期にさくっと出す予定。

RFID World Watcher Monthly March/April (PDF形式、189KB)

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