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2011/06/25

第三回T-Engineフォーラムシンポジウム「RFIDは、今どうなっているのか」

T-Engineフォーラムが開催するRFIDのシンポジウムが6月21に東京大学・山上会館で開催された(プレスリリース)。受け取った案内には「数年前からRFIDの市場が立ち上ると言われて久しい。しかし、最近の国内での報道では、RFIDの市場は盛り上がりが無いという論調が目立つ。しかし、実際には業務用途は着実に拡大しており、海外のスマートフォンではNFCリーダが標準搭載されるなど、RFIDは急速な広まりを見せている」という説明文があり、そういう認識でシンポジウムを開催するのであれば是非聞いておかなければいけないと参加することにした。シンポジウムは2時間強で3部構成。最初に坂村教授が基調講演を行い、続いてT-Engineフォーラムの参加企業が各種事例を発表、最後にパネルセッションという内容になっていた。なお、講演資料はこちらからダウンロードできる。

【基調講演】

実は相当偏向した現状認識が出てくるのではないかと構えて聴き始めたのだが、案に相違して基本的には現状を素直に説明する内容だった。もちろんT-Engineフォーラムとしてのポジショントークもあるのだが(本人が冗談めかして「これからポジショントークを始めます」と言っていた)、基本の知識ベースを共有した上でこの点は触れず別の点は踏み込んだ解釈をしている、というあたりが理解できる。日本からRFIDのビジネス上の動向を追おうという場合、海外ベンダーとの強い接点がある人以外はRFID Journalを丁寧に読むしか方法が無いので、真面目にやればやるほど認識が似てくるのだろう。

講演の要点は以下の通り、

  • 現在RFIDは日本では低調だが、海外では特定の用途で持ち直してきている
  • 世間一般の注目度の観点では、ガートナーのハイプサイクルでは2008年・2009年に幻滅期の谷の一番底にあり、2010年にはハイプサイクルで取り上げられなくなってしまった
  • Wal-Martは2003年にトップ100サプライヤーへのケース・パレットへのタグ付けを義務化し、2006年にはすべてのサプライヤーが対応するロードマップが描かれていたが、これは結局は実証実験であり取り組みは跡形も無く消えてしまっている。その最大の問題はタグのコストを納入業者に負担させるビジネスモデル。またプライバシー反対運動も逆風になった。
  • 一方、同時期に始まった国防総省の導入義務付けはうまく行っている。国防総省は、RFIDの導入により60%の労力削減に成功したと述べている。国防総省の取り組みはアクティブRFIDによるRTLSも含む総合的なものである。
  • 現在RFIDが利用されている分野の中心はアパレル。単価が高いためタグのコストを吸収しやすい。American Apparelなどが代表的な企業で、売上高の14.3%向上、在庫の15%圧縮、20~30%の作業量削減などで多くの企業が半年で投資を回収と発表している。但しこれは業務が未成熟だったためで、現在QRコードが業界内で「発見」されやっぱりRFIDで無くても良いのではないかという意見が出てきている。
  • RFIDの市場規模は日本ではここ数年300億円台(JAISA調べ)半ば、2009年を底に少し回復しているが大企業にとって魅力ある市場規模ではない。全世界での市場規模はIDTechEx調べによると2010年で56.3億ドル、うちアクティブRFIDが6億ドル。
  • 近年NFCの国際標準化がなされ、GoogleがAndroid 2.3でのOS対応や決済サービスの提供を行うなど動きが見られる、またUHFでは日本・EUなどで割り当て周波数変更の動きがある。これらに対応するためにはマルチリーダーライターが必要なのではないか。
  • RFIDは2008年に大きな新技術の種は出尽くした。現在マーケットを変えるインパクトを持つのは口から摂取可能なタグ。これは薬品への貼付が想定されている。
  • RFIDが今後普及していくための課題はクローズドなアプリケーションからオープンアプリケーションへの以降。ターゲットは明確だがどのようなアプローチを取るかが難しい。
  • 先進国ではクローズドなアプリケーションの需要はすでに飽和してしまっている。これに対してはInternet of Thingsの概念を導入し、クローズドなアプリケーションをオープンにつないでいくというのが一つの回答になるだろう。
  • 一方、中国は政府がバックアップしているし市場自体が大きいのでクローズド需要もまだまだ続く。しかしいずれオープン化が課題になるだろう。
  • オープン化にあたっての課題はRFIDデータのオープンクラウド化。書籍の万引き防止タグを蔵書管理に、薬品の流通管理タグを誤投薬防止に、といったことを可能にしていく必要がある。ここで問題になるのがデータのガバナンス。スキャンしたデータは誰のものかをクリアにするため、新たな制度設計が必要。
  • もう一つの今後の課題はコスト。絶対額自体はもはや大きな問題ではなく、どのように分担するかが課題。製品のライフサイクルの中で受益者が単一ならそこが負担すればいいが、今度は複数の受益者が応分負担することが必要になる。中国のような国では国家が貼付を強制できるが、日本のような自由主義経済ではデッドロックに陥ってしまうのではないか。

上記の大筋は同意した上で、個人的な疑問点・反論は以下のようになるだろうか

  • Wal-Martのサプライチェーンでの取り組みが失敗だったことには同意だが、それは経営面での失敗が主原因だったと理解すべきではないか。アパレルで個品管理が有効なのであれば剃刀の替刃でも有効であり、現にジレットなどのサプライヤーはその観点でプロジェクトに期待・支持していたがWal-Martは対応できなかった。コスト負担についてもSam's Club案件の中で修正が図られており、この知見をWal-Mart側のプロジェクトに吸い上げることは可能だったはず。
  • アパレル分野での利用がブームになったのはWal-Martの取り組みがきっかけであり、そこにきちんと触れないのはフェアではない。Wal-Martのアパレル部門が導入を成功させたということは、Wal-Martの現場ではRFIDの有効利用のノウハウが蓄積・咀嚼されてきたことを意味している。
  • 国防総省のRFID導入はアクティブRFIDを中心とした資産管理などのクローズド利用が中心であり、国防総省のMandateは成功したように説明するのはミスリーディング。
  • 先進国でクローズドなアプリケーションの需要が飽和したとは思わない。IDTechExのレポートでも、農業、図書館、生産管理など多くのクローズドアプリケーションで今後5年間にタグ出荷数が何倍にも拡大することが予測されている。
  • 「オープン化にあたっての課題はRFIDデータのオープンクラウド化」というのは昔から言われていた話。いろいろやってみてそのアプローチでは市場が立ち上がらないと分かった後にRFID業界関係者が散々苦労して今のクローズドなマーケットを開発し、特定ユーザー・アプリケーションだけで投資が回収できるようになったものを横展開するという形で次のステップに進もうとしている。そのあたりを無視してデータ共用が必要だと言われてもなぁ。

【各社事例発表】

事例発表を行ったのは下記の6チーム。

  • サトー
  • 大日本印刷
  • 凸版印刷、トッパン・フォームズ(共同発表)
  • 日立製作所
  • 富士通
  • YRPユビキタス・ネットワーキング研究所

各社の発表の持ち時間は10分ほどで、加えて発表の方向性・レベル合わせについても特に合わせてはいなかったようで、自社の単一製品の紹介をしたところもあればRFIDの市場動向全体を説明したところもあった。

その中で特に面白かったのは2社。1社は大日本印刷の万引き防止ソリューションで、店内で即座に万引犯を取り押さえることを望まない企業向けのもの。顔認識技術とRFIDとを組み合わせ、万引犯を検出した際に防犯カメラの顔情報をデータベースに登録し次回来店時に警報を出して警備員に監視させるというソリューション。技術的にもSI案件としても面白いが、よくもそこまで凝ったことを、という気も。

もう一つは富士通で、発表内容は富士通フロンテックのリネンタグや航空機用大容量タグを使ったボーイングとの整備システムなど。どちらも報道で良く知っていた事例ではあるが、本当に海外に目を向けてガンガン展開しているのだなぁというのが印象的だった。

【パネルセッション】

ここまでで時間がかなり押していて、若干慌しい雰囲気が漂う中パネルセッションの開始。坂村教授からいくつかお題が出され、それに答えていく進行が行われた。

最初の議題は「日本ではどれぐらい使われている」というもの。これは、日本ではセキュリティや生産管理の事例が多く、こういった事例では利用方法だけではなく利用していることすら外に見せたくないと言われることが多い。結果として存在感が非常に薄くなっているということがある。また、タグベースで見た場合の金額は知れているが、SI案件の中のツールとして使っているのでその視点からの存在感はあるという指摘があった。

2番目のお題は「高度化・他の技術との結合」。これについては、出席したメーカーの中で量産・標準化を市場攻略の軸にしようという企業は皆無。基本的にどこも大企業であり、タグだけの販売をビジネスにしようとすると1億枚ぐらい出ないと話にならないという規模感を持っている。必然的にSI案件の一部としての売り方になり、そうなると案件を進めていく中で必ずしもRFIDを使うわけではなくバーコードや監視カメラを使った方が良いというものも混じってくる。

最後のお題は「RFID普及にはどうすればいいか」。これについては、日本の事例は確かにそのまま公開できないものが多いが一般化・抽象化すれば外に出せるものも多く、そういったものをきっちりPRしていくことが重要というコメントがあった。また、コストパフォーマンスが上がっているもののソリューションとしてのイニシャルコストが高いため、イニシャルコストを下げて導入しやすくすることが必要という指摘もなされた。

今回は定員100名のところ補助椅子が出るほどの大賑わいだった。このシンポジウムが日本でのRFID再認識のきっかけになればいいが。でも日経BP社が特別協力したのに記事が掲載された様子が無いんだよなぁ…。

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2011/06/18

RFID World Watcher Monthly May 2011

今月はサボってしまい特集記事が一件のみ。消費財RFIDビジビリティプロジェクトの総括についてのもので、ブログ記事で追記したMETROのげんじょうについても記載している。事例紹介はそこそこの数があるが、まとめて見るとソーシャル系の用途が多く業界の構造変化を感じる。

RFID World Watcher Monthly May 2011 (PDF形式、178KB)

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2011/06/04

消費財RFIDビジビリティプロジェクトの総括

このブログでも何度か書いてきたとおり、UHF Gen2タグを用いた個品タグ付けはアパレル分野が牽引して急速に立ち上がりつつある。一方で、RFIDの話を業界外の人とするときには、日本はもとよりアメリカでも「Wal-Martの話って結局どうなったの?」という質問が出ることは避けられない。RFID Journalを初めとする専門誌では長く避けられていたテーマだが、そろそろきちんと総括してもいいのではないかと思っていた。

今年の3月にSuppy Chain Digest誌がその疑問に答える記事を掲載していた(RFID in CPG to Retail - What Really Happened?)。この記事はWal-Martブームのさなかに注目を集めていた企業や人物にコンタクトし、当時の動きや現在の状況を明らかにしようとしたもの。記事によればブームの渦中で注目を集めていた企業の多くがRFIDへの取り組みを放棄している。例えばサプライヤー側のリーダー企業だったProcter & Gambleは、現在RFIDの実案件もパイロットも行っておらず完全にRFIDから手を引いているとのこと。また、小売側ではTescoやMETROもこの3年間何も新しいプロジェクトを実施していないということだ。個人的にはMetroはかなり詰めたRFID導入プランを作っていたと言う印象があり、この記述にはちょっとショックを受けた。

消費財のRFIDサプライチェーンビジビリティプログラムの顛末に付き、この記事は以下のような分析をしている

  • Wal-Martはプログラム開始当時に「本当に5セントタグが実現したらRFIDの利用が採算に合うのか」というきちんとした分析を行っていなかった。
  • Wal-Martの動きにメディアやコンサル会社が乗っかり、ユーフォリア的な集団心理を作り出した。
  • 消費財メーカーは、店頭でのプロモーション管理などではRFIDの利用が有効だと考えていたが、Wal-Martはこの分野での利用を途中であきらめてしまった(参考記事: プロモーションパレットビジビリティの挫折)
  • Wal-MartはRFIDの導入手順についても適切な計画を持たなかった。RFIDの利用価値のある商品から導入するのではなく、何でもいいから一つの商品で貼付すればいいというアプローチを取った。

上記の分析は正しいとは思うのだがやや言葉を選んでいると感じた。この記事には、僕が気になった別のエピソードが掲載されており、そちらの方が真実を穿っているように思える。2005年頃、当時Wal-MartのCIOとしてRFIDプログラムを推進していたLinda DillmanにIBMのコンサルタントが"RFID: A Balanced Perspective"というレポートを提出した。このレポートはWal-Martの導入プログラムに関する運用面・コスト面の問題を指摘し計画の再考とペースダウンを求める内容で、消費財メーカー20社がスポンサーになっていた。だが、このレポートの説明会には4社しか参加せず、しかも1社は席上でWal-Mart側に寝返ったという話だ。

お得意様の「亭主のすきな赤烏帽子」に付き合わされる出入りの業者の悲哀というふうにも、あるいはジェフリー・ムーアが「キャズム」で指摘したビジョナリーのダークサイドという風に見ることもできる。いずれにせよ、あの華々しさの裏側にこういう話があったと思うと個人的には酸っぱい思いもある。こういうお祭り騒ぎは、少なくともRFID関係のテーマではもう出てこないんだろうなぁ。

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(追記:2011/6/18) コメントを頂き、METROのRFIDへの取り組みを再度確認してみた。同社は2008年夏にCash & Carry店舗にパレットタギングシステムをDHLと導入するプロジェクトを進めており、2009年7月にはドイツの全店舗とフランスの89店舗に導入を完了したという記事がRFID Journalに掲載されている(Metro Group Says New Tag Helped It Meet Its RFID Goals)。これら一連のプロジェクトを受け、METROのCIOは2009年10月開催のRFID Journal LIVE! Europeでキーノートスピーチを行った(Metro Details Some of Its RFID Successes)。このキーノートスピーチはかなり古いものを含めた過去プロジェクトの総括で今後の具体的な方向性には触れていないこと、その後にMETROのRFIDへの取り組みがぴたりとメディアに出てこなくなってきたことから、現時点でRFIDへの取り組みが停止している可能性は充分あると思うが、3年前(2008年)から新しいプロジェクトに取り組んでいなかったという記述は検証の必要があるだろう。

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