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2011/04/30

RFID Journal LIVE! 2011雑感(Gen2チップとトルネード)

RFID Journal LIVE! 2011が閉会して2週間。編集部の後片付けも収まりぼちぼちと新製品やセミナーの記事が出始めている。野次馬的に見ていてちょっとつまらないのは、RFID単体製品として技術的に派手なものが出てきている様子が無いこと。もっとも、この点についてはここ数年の傾向であり、今年に限った事ではない。文句なしに技術的に凄げぇという製品が発表されたのはMojix StarsystemとOmni-IDが出た2008年が最後かなー。

もちろん派手な技術が出てきていないことが業界の停滞を示すわけではない。編集長のMark Roberti氏もコラムでその点に触れていて、タグやリーダーなどのハードウェア単体ではなく、業界個別のニーズに合わせて開発された統合ソリューションが多数出てきていると述べている(New Solutions on Display at RFID Journal LIVE! 2011)。記事の中の例を挙げると、ODIN TEchnologiesが販売する検査用組織片トラッキングソリューションEasySpecimen、Rush Tracking Systemsが開発したフォークリフトRFIDオペレーション管理ソリューションVisiblEdge、Identec SolutionsとInSync Softwareが共同開発した酒類バーカウンター販売管理システムなどなど。もっとも、こういった統合ソリューションへの動きも2009年あたりから出始めていたものであり、現在の主戦場であるアパレルとヘルスケア用器材管理ではない分野に統合ソリューションが広がってきている点に注目すべきだろう。

それではその主戦場たるアパレル分野に関係する製品展開はどうなっているだろうか。直接のアパレル関連製品ではなく、現在出荷数の大多数がアパレル分野で利用されているGen2チップについて見てみたい。Impinj、NXP、Alienの主要Gen2チップベンダーは例年と同じく新しいGen2チップをRFID Journal LIVE!に合わせて発表してきた。Impinjが発表したのはMonzaファミリーの最新版Monza 5(RFID Journal: Impinj Launches Products to Speed Item-Level Encoding)。前バージョンからの特徴は、読み取りではなく書き込みのスペックを向上させたこと、そしてMonza 4が持っていた複数アンテナ対応を削除したこと。Monza 4は継続して出荷するので複数アンテナ対応が必要なチップはそちらを使って欲しいというスタンス。AlienはHiggsのバージョンを4に引き上げた(RFID Journal: Alien Technology Announces New IC, Handheld Readers and Inlays)。こちらの特徴は前バージョンのHiggs3からメモリーを削ったこと。Higgs3では800ビットあったメモリがHiggs4では512ビットになった。Higgs4でのメモリ割り当ては、EPCフィールドが128ビット、TIDが64ビット、ユーザメモリが128ビット、読み取りと消去のパスワードがそれぞれ32ビットになっている。こちらもHiggs3は継続して提供し、Higgs4のメモリ割り当てで困るユーザーはHiggs3を使って欲しいとしている。NXPが新たに投入したGen2チップはG2iM/G2iM+(RFID Journal: NXP to Unveil New UHF, HF Chips)。こちらは従来モデルのG2iL/G2iL+の上位モデルという位置づけで、プレスリリースでは下記のようにG2iL/G2iL+をアパレルを代表とする低価格大ボリューム案件として位置付け、G2iM/G2iM+は大容量を生かして新たなマーケットを切り開くのに用いるとしている。ImpinjやAlienと同じく2本立てのラインナップになったということだ。

We now deliver a comprehensive high- performance portfolio ranging from the UCODE G2iL and G2iL+ for cost-sensitive, low memory, ultra-high-volume RFID applications – most notably in fashion and apparel – to the new UCODE G2iM and G2iM+, which offer enhanced memory and features for more sophisticated applications such as FMCG and electronic vehicle tagging

僕が面白く感じたのは、現在の最大の主戦場であるアパレル分野に対し、ImpinjとAlienは従来製品から機能を削った新製品を投入し、NXPは高機能な製品を投入して既存製品を低価格ラインに据え置いたこと。どちらも高機能を付加価値にアパレル分野でシェアを取ろうとはしていない。これは安くて作りやすい(現時点でもGen2チップは慢性的な供給不足が続いている)製品を投入し、とにかくシェアを抑えてしまうという企業戦略に基づくものだ。そう、これはジェフリー・ムーアのキャズム理論で言う「トルネード」が今年発生する(あるいはもう発生している!)と各チップベンダーが判断したことを意味する。いよいよここまで来たんだなぁ。長かった…。

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2011/04/24

RFID World Watcher Monthly March 2011

今回の特集記事はエントリを起こしたエントリと同じペーパータグと米軍のRFID利用。今回分はそれほど手を入れておらず申し訳無い。
ニュースの方は先月と同じくRFID Journal LIVE待ちの地味な内容で、野次馬的にはやや期待はずれだった。今年のLIVE!も地味な内容が多く、全体の方向性の印象について近くエントリを起こす予定。

RFID World Watcher Monthly March 2011 (PDF形式、218KB)

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2011/04/03

ハイチ大震災救援時の米軍のRFID利用

東日本大震災の後twitterなどのRFID関連の発言を見ていると「救援物資の輸送を効率的に行なうためにRFIDを利用できないのか」と言う話題がちらほら出ていた。一般論として、災害時のような混乱した環境下での物流オペレーションにはRFIDは有効なはずである。平常時の完全にコントロールされた環境で、オペレーションが全て記録され人為的なミスが発生しないのであれば、RFIDを利用するメリットは存在しないからだ(自動倉庫のオペレーションを想定して欲しい)。人為的に発生するミス(帳簿と現物の不一致)や悪意(窃盗)を人手を介さず自動的に発見できることこそが物流でのRFID利用のメリットの本質である。

だが、このようなメリットを得るためにはRFIDの採用だけではなくシステム全体の対応が必要になる。配送先(通常であれば店舗)や中継拠点(通常であれば物流センター)でまともな管理を行なうことができず、輸送経路や手段も全く信頼できない、仕入(救援物資の調達)もコントロールできないという状態では、通常の民間企業のサプライチェーン管理システムは使い物にならない。このような環境で運用が可能なのは軍事用の兵站管理システム、それもおそらく米軍のIn-Transit Visibility (ITV)だけだろう。以前に米軍のRFID担当者の講演を聞いたときに、米軍の兵站部門は突然砂漠の真ん中に店舗ができクリスマスがいつ来るかわからないWal-Martのようなものだという話をしていて、卓抜な例えに唸ったことがある。

それでは、ITVシステムが災害派遣に利用されたケースでのRFIDの具体的な利用方法はどのようなものになるだろうか。RFID Journalが米軍のハイチ大地震時の救援活動を記事にしている(In Haiti, RFID Brings Relief)。米軍の兵站活動やITVシステムの全体をカバーする内容ではないが、前線でのRFIDの利用という面ではいろいろ興味深い内容が含まれている。

ハイチ大地震の対応のために出動したのはアメリカ南方軍(USSOUTHCOM)。カリブ・中南米地域を担当する部隊で、土地柄災害救援任務が多い。2005年から2010年までに14回の災害救援出動を実施し、ハイチ大地震では2万人の救援部隊を投入した。その中でロジスティクスを担ったのは陸軍配備流通コマンド(Surface Deployment and Distribution Command, SDDC)であり、フロリダ州ジャクソンビルのSDDC兵站施設を策源地とした上で、ハイチにも南方軍との統合任務部隊(Joint Task Force, JTF)を投入、ハイチに搬入した物資をスムーズに配布するための作業を担当させた。

2010年1月12日の地震の発生から1週間後、1月20日に最初のSDDCの部隊がハイチに到着。その日のうちに発電機と衛星電話をセットアップし、ゲートリーダーとITV端末の稼動を開始した。翌日から到着コンテナの処理を開始したが、コンテナにはRFIDタグが装着されていないものがあった。これは、緊急で出荷したためにコンテナにタグを付ける余裕が無かったためである。だが、初動の混乱が収まると全てのコンテナにタグが取り付けられ、物資がスムーズに流れ始めた。最初に到着したのは水、調理済みの食料品、薬品で、続いて建機などが到着した。ジャクソンビルから送り出されたコンテナがハイチに到着するとゲートリーダーでコンテナタグを読み取り、ITVに到着を通知した。また、停電時の対応、ヤード内の棚卸しのため、ハンドヘルドリーダーも併用された。

一方ジャクソンビルでは補給物資・支援物資のコンテナへの搭載が行なわれていた。初動においては、コンテナに搭載する貨物の明細は手入力されていた、これは、最初に搭載する物資(ケース・パレット)には2次元バーコードが貼付されていなかったためである(作戦が進むにつれ納入されたケース・パレットに2次元バーコードラベルを貼付するプロセスが稼動しはじめた)。全ての貨物がコンテナに搭載されるとアクティブタグ(ISO 18000-7互換の433MHzアクティブタグ)がコンテナに取り付けられ、貨物マニフェストとタグIDをリンクさせてITVに登録された。また、他の兵站拠点から到着したコンテナについては、タグが未装着の場合には新規に取り付けた上で、コンテナがジャクソンビルを通過した事をITVに登録した。

輸送された物資の明細は明かされていないが、3000個を超える輸送単位(パレットから建機までの様々な荷姿のものを含む)が輸送された。

以上が記事に書かれている内容である。オペレーションに関する雑感のような内容になっているが、いくつか気付くことがある。

  • コンテナより小さな物品の管理についてRFIDは利用されていない。アメリカ国防総省は調達品についてケースやパレットへのタグの貼付を進めているが、記事にはまったく出てこない。もっとも、今回輸送された物品はバリューが低く純粋な軍需品ではないことに留意する必要がある。
  • ITVでは民需品で利用されているバーコード(UPCシンボルなど)を扱えないようだ。今回のように民需品を調達、輸送することも多いだろうに、ちょっと杓子定規ではないかと感じられる。
  • オペレーションそのものは実は商業物流とあまり変わりは無い。コンテナにケース・パレットを搭載し、搭載貨物の情報とタグIDを紐付けてビジビリティシステムに登録、仕向け地ではタグIDを読み取ってどのどの貨物が到着したかを確認する。
  • オペレーションがかなり雑である。アメリカ本土から近い場所への派遣であり、災害派遣慣れした部隊であるはずなのに、初動ではコンテナタグすら装着できていない。補給部隊の指揮官も「RFIDを積極的に利用する態度を養わねばならない。状況が早く変化する現場ではRFIDタグを取り付けようという努力が遅れがちになる」と述べている。

この記事に記載されているのは現場でのオペレーションであり、ITVを利用した意思決定の部分ではない。ITVを利用するメリットは、必ずしもタグ貼付などの条件が満たされていない状況でも、指揮官のインタビューにあるように「地球規模の全体的な展望」が得られることにあるのだろう。

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