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2009/10/28

ConairのRFID戦略

Conairという会社をご存知だろうか。アメリカの健康美容製品とキッチン家電製品の大手のメーカーである。多数のブランドを傘下に持っているのだが日本人に馴染みのあるものはほとんど無い。古くからのゲーマーならCuisinart(クイジナート)がここのブランドだと聞けばニヤリとするかもしれないぐらいか(RPGの古典Wizardryの最強武器の一つBlade Cusinart'はこのブランドのフードプロセッサーの名前をもじったもの)。とはいえ、アメリカ人にとってはすぐにピンと来るブランドを扱っている大手企業であり、年間コンテナ15,000本を輸入するアメリカの上位50位に入る輸入者でもある。

僕がこの会社の名前を知ったのは今年の春のRFID Journal LIVE! 2009でのこと。ConairとRFID製品を扱う子会社USA IDが共同でGen2パッシブタイプのe-Sealを出展していたのだ。このときは出展規模も小さくセッションやワークショップもやっていなかったため、パンフレットを貰ってこんな会社があるのかと思っただけでしばらく忘れていた。

このConair社が最近RFID系のメディアに登場するようになった(RFID Journal: Conair Uses Its Own RFID Solutions to Expedite ShipmentsBaird RFID Monthly:Conair Rolling Forward with RFID to Improve Revenue, Speed Customs and Reduce Costs)。ここで扱われている2種類の案件が非常に興味深い。

一つはWal-Mart・Sam's Club向けのタグ付けの件。同社ではミシシッピ州にWal-Mart・Sam's Club向けの物流センターを持っており、そこから出荷する商品にタグ付けを行っている(RFID Monthlyによるとキッチン用品については個品、ドライヤーについては6~8個の集合箱が対象)。同社は今年Sam's Clubとの間でビジビリティーの強化による在庫切れ防止のトライアルに取り組み、明細は非公表ながらも瞠目すべき効果を挙げたとのこと。同社はこの結果を受け、現在はミシシッピ州の物流センターで手作業で行っているタグ付けを、中国およびコスタリカのメーカーの時点で行うように切り替え、すべてに対し個品単位で行うようにするとのこと。また、物流センターにMojix Star Systemを導入し、在庫品のRTLSを行う計画を持っている。この物流センターで扱う商品の個数は年間数千万個になり、現状のサプライチェーン向けGen2タグの市場規模(IDTechExによると2008年で2億個)と比べて非常に大きい。Wal-Mart・Sam's Club向け案件でサプライヤーが真っ向勝負でタグ付けを行うという案件はここ2、3年ほとんど見かけなかったもので、正直半信半疑という印象を持ってしまうほどだ。

もう一つは海上コンテナ単位でのサプライチェーン管理。ConairとUSA IDは上に書いたようにGen2タイプのe-Sealを製造しているが、実際には2002年からアメリカ国土安全保障省と共同で作業をしてきたらしい。そして、今年に以下のようなパイロットを実施したとのこと。

  • Conairが利用するコンソリ業者が個品単位にタグ付けを行い、6本のコンテナに搭載する前にタグを読み取って電子マニフェストを作成する。電子マニフェストはConairのデータベースに格納されEPC番号が付与される。
  • コンテナはUSA IDのe-Sealでシールされ、シール番号は電子マニフェストに紐付けされる。
  • このe-SealにはGPSと携帯電話が内蔵されており、それによって得られた位置情報はConairのSAP基幹システムに直接送信される。
  • コンテナがアメリカに到着すると、税関は貨物のチェックをする時にRFIDハンドヘルドリーダーを利用し、コンテナおよび個品のタグを読み取る。これにより、Conair側の事務での作業量とミスが減ると共に、税関での処理が高速化することで貨物の配達が早くなる(注:このメリットにはいわゆる"Green Lane"が関係していないことに注意)。

現時点ではアメリカ国土安全保障省はこの実現にコミットしておらず、あくまでも独自に実施したパイロットということのようだ。ただ、これだけのパイロットを単独で実施できる能力というのは相当のもの。アメリカのe-Seal動向にはそれなりの注意を払っていたのだが、こういうプレイヤーがいることにはまったく気づかなかった。

Conair社は昔からRFID導入に熱心だったわけではない。このニュースを見たときに見かけたことがない名前だと思ってRFID JournalやRFID Updateの記事を検索してみたが引っかかってくる過去記事が無い。他のメディアでは、2007年12月の記事として「Wal-MartにMandateを求められたがすべての物流センターで対応するつもりが無く、Wal-Mart専用の物流センターを新設してそこに対応が必要な貨物を集中させた」という記事が引っかかってきた(DC Velocity: Conair gets a makeover)。

ともあれ、Wal-Mart Mandateといい、e-Sealによるアメリカ輸入通関改善といい、従来は動きが鈍いと思われていた業界でこれほど大きな事例が突然出てきたことは非常に興味深い。ひょっとして既存のRFIDコミュニティとは別の場所で凄いことをやっている会社もまだまだあるのではないか、と思わされた。

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2009/10/17

電子タグの最近の利用動向~注目の応用分野・アプリケーションを中心に~(ソフトピアジャパン発表)

ソフトピアジャパンが開催する電子タグ・Auto-IDシステムの研究会に参加してきた。この研究会はものづくり企業・IT企業へのRFIDの普及が目的ということで、発表への質疑応答なども多く活発な会だなという印象を持った。

僕の発表はRFID World Watchでやっていた内容をまとめたようなもの。製造業向けというのが難しい注文で、結局製造業に関係する事例でこれはというのを拾うことができなかった。以前にも書評としてエントリをあげたが(RFID in Manufacturing / Oliver Gunther他(著))、製造業のRFID事例を共有するには何か工夫が必要なのだろう。少しまじめに考えてみないとな。

プレゼンテーションスライド(pdf形式)

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2009/10/07

IEEE 1902.1 (IEEE Standard for Long Wavelength Wireless Network Protocol)

先日の自動認識総合展のレポートでもちらと書いたが、3年前にこのブログ(RuBee IEEE P1902.1)で取り上げたIEEE 1902.1が今年の3月に正式に認可されていた。すでに良くまとまった記事もWebに公表されており(EDN Japan: IEEEのLF帯無線通信規格、センサーネットワークの“ラスト5m”に適性)、このブログで付け足すことも実はあまり無いのだが、GoogleでRuBeeを検索するとこのページがトップに来る(苦笑)という縁もあり、自動認識総合展で聞いたプレゼンもあわせて少しコメントしたいと思う。

プレゼンを行ったのはセイコーエプソンの開発者。IEEE 1902.1は先の記事に書いたようにアメリカのVisible Assets社のRuBeeというシステムを元にしているが、セイコーエプソンは日本メーカーとして規格策定作業に唯一参加し(WGの副議長だったとのこと)、現状でIEEE1902.1向けのICを製造している唯一のメーカーでもあるとのこと。セイコーエプソンは時計メーカーとして電波時計で使われるLF帯の通信技術や腕時計の超低消費電力IC技術を持っておりこの規格の可能性に注目したそうだ。実際、IEEE 1902.1の最大の特徴である超低消費電力のアクティブタグというのは規格それ自体というよりは実装(超低消費電力マイコン、正確なクロックを前提としたスリープ)に由来する部分が多いようにも感じる。現在の製品はコイン電池(CR2032)で動作し動作可能時間は5~7年で、1秒当たり8回の通信待ち受けができるという。送信時の消費電力も数十μWとのことで、これならば比較的簡便なエナジーハーベスティング部品でも駆動できるだろう。この製品での読み取り距離は5m程度。LF帯の電波を使うので水は全然影響を与えないし多少の隙間があれば金属の箱の中に入れても読み取りを行える。

反面、製品としての限界はやはり通信速度だろう。IEEE 1902.1で規定された通信速度は1024bps。これは物理層での通信速度であり、ユーザデータとして送受信できるのはせいぜい毎秒32バイト程度になるらしい。前回の記事ではメッシュネットワークを構成できると書いたが、この通信速度ではちょっと厳しいだろう。実際、サンプル実装はしてみたものの、メッシュネットワークが使い物になるとは思っていないそう。

ならばどう使う、ということになるが、プレゼンではいくつかの案が挙げられていたものの、本命はEDN Japanの記事のタイトルどおり「センサーネットワークのラスト5m」、つまり壁や地中に埋め込むセンサーにIEEE 1902.1を組み込み、1ホップでアクセスポイントに接続、アクセスポイントからバックボーンには他の有線・無線のインフラを使うというもの。地味ではあるが現実的なアイデアである。でも、もっと何か面白い使い方ができそうな気もするんだよなー。

セイコーエプソンではIEEE 1902.1を用いた製品を商品化しているわけではなく、技術を紹介してマーケットの反応を見ている段階という。他のRFID・センサーネットワークデバイスが苦手とするニッチを突いた製品だけに、うまく普及してユーザのソリューションの幅を広げる存在になってほしい。

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