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2009/07/28

BRIDGEによるGen2セキュア化プロジェクト

ヨーロッパのRFID研究プロジェクトBRIDGE内のSecurity Research Groupが、RFIDのセキュリティに関するホワイトペーパー"RFID Tag Security"(pdf形式)を公開したというニュースが報道された(RFID Journal: BRIDGE Researchers Demo Highly Secure EPC Gen 2 RFID)。特にRFID Journalの記事では暗号化機能を実装したプロトタイプタグを作成したというあたりが強調されていたのでそのあたりを期待して読んでみたのだが、残念ながらその点は期待はずれ。25ページのホワイトペーパー全体が経営的な視点で書かれており、RFIDでセキュリティ・プライバシーが必要なユースケースを洗い出し、どのような技術が解決策を提供できるかという内容になっている。

内容としては、Gen2タグに共通鍵暗号であるAESの処理機能を組み込み、それをベースにして認証・暗号化・偽造防止などのトータルなセキュリティ機能を実装するというもの。Gen2チップにそれだけの拡張性があるのかと思うが、RFID Journalの記事によると現在5,000ゲートのGen2チップに3,000ゲートの回路を追加することで対応が可能で、また読み取り距離も低下しないとのこと。ただ、読み取り速度は低下し、またアンテナは大きなものを使用する必要があるとのことだ。AES機能を持つGen2タグのコンセプトモデルを試作したという話については、現時点ではAES演算回路を外部に持ちそれを駆動するために電池を持っているため、その点での技術的なインパクトには欠けている。

他には、タグIDによるセキュリティを信頼すべきではない(収束イオンビームによる書き換え、エミュレータによる偽装、チップベンダが将来ブランクIDチップを出荷する可能性)との指摘や、タグが消費者に渡る際に動作を一時停止する(レポート中では"stun"と表現されている)機能をAES暗号基盤を用いて実装すべきといった内容が記されている。他にもRFIDリーダーの認証やEPCネットワークのセキュリティにも触れられているのだが、こちらは記述が余りに少なく、ホワイトペーパーだけでは具体的にどのような技術的対策が採られているかは分からない。

けれんみの無い地に足が着いた内容で、こういう文書が公的機関によって発表される意味はあると思うが、個人的には常識の範囲に留まる内容だったのであまり面白みは無かった。技術的な研究の成果は別途ダウンロードできるようになっており(リンクページ)、そこに興味がある人は別途ダウンロードして読むことができるので、僕のような人間はそうしなさいということなのだろう。それぞれかなりのページ数なのでまだ目を通せてはいないが…。

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2009/07/24

オープンループでのリターナブルアセット管理(Container Centralen)

RFIDの業界紙を読んでいると何年も前に読んだような事例と見分けが付かないものが出てくることが多くて悲しくなってしまうのだが、時には「時代が動いたな」と感じさせる事例が出てくることがある。今回紹介するContainer Centralenでのリターナブルアセット管理は間違いなくそういう事例の一つだ。この事例は前回も紹介したBaird RFID Monthly July 2009号で特集されている。

Container Centralenはヨーロッパで園芸業界用のカゴ車のプールを管理する企業。同社が管理する台車は350万個で、同社の顧客は育苗業者・卸・物流業者・小売店などヨーロッパ40ヶ国で2万5千社に達する。同社がカゴ車の管理で悩んでいる内容は他のリターナブルアセット案件で目にするものと同じで、カゴ車の紛失や粗悪品との入れ替えなどによるもの。

CC社はこの問題を解決するためにRFIDの導入を決め、短期間での普及のために思い切った手段を取った。カゴ車にGen2タグを取り付けて管理を行うのだが、カゴ車を利用する企業にタグデータの読み取りを義務付け、読み取り履歴が存在しないカゴ車は返却を受け付けないことにしたのだ。つまり、CC社のカゴ車プールを利用する顧客はGen2タグ対応のリーダーを導入する必要がある。その導入期限は2010年2月。RFID Monthlyの記事によると最終的には25,000台のリーダーがこのプログラムにより導入されることになる。ちなみに、システムを開発したのはIBM、タグはConfidex社のものが使用される。

この導入プログラムでは、不正なカゴ車の混入を防ぐことを主要な投資対効果の源泉としており、CC社が管理するカゴ車の太宗を占めるオーナー4社に既に了解を取っている。加えて、カゴ車がユニークなIDを持ち、それが業界内で利用することで、誤配送の防止、紛失の予防、トラッキング情報の提供、検品作業の効率化などのメリットを得ることができる。

この種のオープンループのリターナブルアセット管理では、導入が成功「した後は」多大なメリットを参加者全員が得られるということは既に長い間議論されてきている。だが、どうやって導入を成功させるかについては現実的なアプローチが示されて来なかったと言ってよい。CC社のモデルでは、タグを取り付けることでオーナー単独でも投資を回収できるというモデルを提示し、それを梃子にオーナーを動かしたということが画期的なのだ。もちろんこのプロジェクトはいきなり立ち上がった訳ではなく、長期間の実証実験が行ってきた。その最終段階のものが台車を対象としたパイロットで、パイロットとはいえ使用した台車は30万個。僕が昨年参加したRFID Europeでそのパイロットの結果が報告されていた(RFID Europe 2008 (Day 1))。

業界が限定されるとはいえ、数百万個のオーダーのアセットを対象に40ヶ国・2万5千社のエコシステムの中でRFIDによる管理を行うという事例が出てきたのは重く、従来からこの分野をウォッチしていた人間としてはいよいよここまで来たのかという感慨がある。このプロジェクトでは専用のサイトを立ち上げており(リンク)、興味のある人はぜひチェックしてみてほしい。

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2009/07/22

RFIDマーケット底打ち(Baird RFID Monthly July 2009による)

最近RFIDマーケットの予測が幾つかの調査会社から発表されていているが個人的にはピンと来る数字が出ているものがなくこのブログで取り上げてはいなかった。今月号のBaird RFID Monthly(pdf)に最新の聞き取り調査の結果が出ており、これは具体的な内容だったので紹介したい。

Baird RFID Monthlyの調査はAID製品リセラー(RFID製品単独のではない)に対する聞き取り調査に基づいたもの。この調査は四半期ごとに実施されており、3月の調査と6月の調査を比較する形で記述されている。記事の内容は以下の通り。

  • 足元の景況感は良いと悪いの比率が0.9:1とほぼ中立となり、3月の調査時点の0.2:1から大幅に改善した。設備投資となるハードウェアの購入はまだ回復していないが、支出額が小さく投資回収期間が短い小さなプロジェクトが動き始めている。また、ハードウェアについても、部品や消耗品は徐々に動き出している。
  • 6ヵ月後の景況感については良いと悪いの比率が4.9:1となり、こちらも3月の調査時点の1.7:1から大幅に改善した。これは、エンドユーザーが資金繰りや業務効率の改善に明確な必要性を感じていることを踏まえている。現状のエンドユーザーのニーズから、在庫管理、倉庫管理、資材管理などの分野での成長が見込まれる。現在ユーザーはソフトウェアへの投資を考えているが、モバイルコンピューティングやRFIDへの注目も増大している。
  • 多くのエンドユーザーではレイオフを継続して進めているが、経験的にレイオフは行き過ぎになることが分かっており、景気が回復基調になると人手不足が発生すると考える。人手不足に対応するための生産性向上にはモバイルコンピューティング、バーコードプリンタ、RFIDなどが主要なツールになり、調査結果全体を踏まえるとこれら製品は2009年下期には動き始めると考えられる。
  • ジャンルごとの強さでは、政府調達が5段階の3.81と3月の3.61から改善し、現時点でも最も需要の強い分野となっている。他に改善の度合いが強い分野は、金融(2.71 ← 2.33)や倉庫(2.91 ← 2.74)がある。リテール(2.54 ← 2.43)・運輸(2.93 ← 2.82)・製造(2.63 ← 2.55)では着実な改善は見られるもののその速度は遅い。

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2009/07/15

Airbusによる部品サプライチェーンRFID利用開始

ここ最近はすっかりニュースを見ることが少なくなっていたMandate案件で久しぶりに大きな動きがあった。エアバス社がA350 XWBの部品サプライヤーに対してタグの取り付けを要請するとRFID Journal LIVE! Middle East 2009で発表したのだ(RFID Journal: Airbus Issues RFID Requirements, Expands RFID Usage)。この発表の直前までの情報は日経ITPro Webでのコラムにまとめたのでまずはそちらに目を通していただきたい(航空業界でのRFID利用の現状)。

上記のRFID Journal記事によると、要請の内容は以下のようなものとなっている。

  • 対象となる機体はAirbus A350 XWB。この機体のサービスインは2013年の予定。2011年かその前にタグの取り付けを求めることになる。
  • タグの取り付けの対象となるのは全ての部品ではなく、補修サイクルの中で利用されるものだけである。現時点では詳細設計が続いているため確定した数字ではないが、おおむね2000個から5000個の部品が対象となるだろう。
  • 使用するタグには、利用環境の違いによりGen2タグに加えてコンタクトメモリボタン(CMB・接触方式で読み書きを行う)、更に登録するデータ量によって512ビットの低容量タイプと4キロバイトの大容量タイプを使い分ける。エアバス社は部品サプライヤーに対し、部品ごとにタグ付けが必要かどうか、必要な場合にどのような種類のタグを取り付けるかのガイドラインを配布している。
  • タグに格納するデータ形式はATA Spec 2000を採用する。これは上記のITPro Webコラムにあるように、航空業界がタグ用に新規に策定し、6月に正式に成立した。

現時点ではまだ他のメディアでの続報は無いが、タグもデータ形式も出揃ったところであり違和感のある内容ではない。いよいよ業界の本気が問われることになるだろう。利用するタグの数量と言う面では既存の期待まで導入が広がった時点でもせいぜい百万個のオーダーで小売・アパレルに比べると小さなものだが、アプリケーションに関しては成功すれば新機軸の導入・技術の成熟・普及どちらの面でも大きな影響を持つことになるだろう。楽しみだ。

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2009/07/10

コンテナ監視器材の導入をめぐる議論に対する考察(日本物流学会誌第17号掲載)

ここしばらく全然エントリを起こせていない。最近IEEE 802.15.4プロトコルの研究を始め、自由になる時間のほとんどをその分野の資料を読むのに充てているのが大きい。その分野から何がしかネタを拾って、とも思うのだが、ちょっとテクニカルに過ぎるし自分にまだ土地勘が無いので面白いネタを切り出せない。しばらくは投稿ペースが落ちた状態が続きそうだがご容赦願いたい。

さて、日本物流学会誌の第17号にタイトルの論文が審査付き論文として掲載された。昨年の学会発表「コンテナ監視器材に見る安全保障分野でのコンプライアンスリスク」を基にした内容で、ページ数が増えた分やや視野は広くなっていると思う。

ダウンロード(pdf形式)

要旨

アメリカ同時多発テロ以降、コンテナ物理セキュリティの主目的は物流関係者の損害の最小化からテロ行為の防止へと変化した。だが、規制を先導したアメリカでの動向を見ると、一定のコストで統計的なリスクを最小化しようとする行政府と、有権者の不安を背景に直感的な納得・安心を求める議会の一部との間で意見の対立が存在する。コンテナ物理セキュリティの中核であるコンテナ監視器材は現時点では商業輸送分野での本格的な利用の可能性が検討されている段階であるが、一方で安全保障目的の器材の普及が進んでおり、価格の低下や技術の標準化などで商業輸送用の製品との区別があいまいになりつつある。よって、商業用のコンテナ監視器材の標準化が足踏みしている間に安全保障目的で開発された器材が議会により採用を決定され、商業輸送分野で不必要なコストの増大や運用上の問題を生じさせる可能性がある。本稿では、商業輸送と同じ技術を用いたコンテナ監視器材が安全保障分野で導入されている事例を紹介すると共に、物流関係者が取るべき対応策を提示する。

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