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2008/04/24

MEMflakes (MEMS共振器によるタグ個体識別)

RFID Update誌にMEMflakesという技術を使ったタグ個体識別の記事が載った(Startup Adapting MEMS Technology for RFID Authentication)。かなり技術的な内容でざっと読んだだけでは内容があまり理解できなかったのだが、調べてみるとちょっと面白い技術だったのでエントリを書くことにした。

ハード屋さんには何をいまさらな話だろうが、まずはMEMSとは何ぞやという話から。MEMSとはMicro Electro Mechanical Systems(微小電気機械素子)の略語であり、従来のICで使われるものとは異なる部品をシリコン基盤上に作りこんでしまう技術のことを言う。現在の代表的なMEMSはインクジェットプリンタのノズルやプロジェクタの光学素子。別プロセスで作った部品を集積回路に取り付けるのと比べてコストやサイズで大きな優位性があるため、いろいろな分野で応用が期待されている。

そのMEMSの最新の応用例の一つが共振器。従来は水晶発振器を使って実装していた特定の周波数を得る機能をシリコンチップの上にまとめることができる。既にハンドヘルドリーダーやアクティブタグにも利用されているかもしれない。Web上で見つけた中でもっとも詳しい記述のあった、MEMS製品ベンダSiTime社の資料をリンクしておく(クロックの新しい形、水晶に替わるシリコンMEMS発振子, pdf形式)。

今回のRFID Update誌の記事はここからが本番である。MEMflakesを開発したのはVeratag社というベンチャー企業。同社の創業者陣はコーネル大学の研究者出身で、MEMS共振器を開発する過程で非常な苦労をしたという。MEMS共振器は音叉のようなものであり、サイズが微小であるだけに原子一つというレベルで発振パターンが微妙に違ってしまうそうなのだ。ちなみにMEMflakesのflakesはsnowflakes(雪片)から取ったもので、雪の結晶も全く同じものを作ることができないからということらしい。

で、彼らはこの特徴が個体識別に利用できるのでは、という可能性に気がついた。意図して同じものを作ることはできず、偶然に同じ特性を持ったものができる確率は1杼分の1(10の24乗分の1)である。そして、この特性は電波の読み取りによって計測することができる。

MEMflakes技術をサポートするタグは現在の技術で量産することができ、その場合にサポートできる周波数は50kHz~100MHzだという。記事を見る限りVeratag社は13.56MHzのICカードを用いたアクセス管理需要を狙っているようだ。なお量産時の価格については触れられていない。

このようなハードの癖を利用したタグの個体識別としては、応答信号の特性を使うというアイデアが数年前に報道された記憶がある(今回記事を探してみたのだが見つけられなかった)。その後続報を見ないということはあまり筋の良い技術ではなかったのだろう。が、MEMflakesの方は、差異を発生させる部分がはっきりしているので、あるいは使い物になるのかも、という気はする。この技術は人間を対象とした認証技術で言えば生体認証に相当するということに気付けば、公開鍵暗号による認証と競合するものではなく互いに補完するものであることも分かるだろう。別の使い方として、暗号化機能を持たない低価格のタグに複製不可能なユニークIDを付加することができるかもしれない。

商品化までにはまだ時間がかかるだろうが、MEMSflakesは複製防止という用途への抜本的な対応策となりうる。従来のユニークIDに頼る方法では書き込み可能タグを用いた複製には対応できないからだ。Internet of Thingsの基盤技術にもなりうるかも知れない。

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2008/04/21

The Great RFID Game

RFID Journal誌にアメリカのアクティブタグベンダHi-G-Tek社がカザフスタンとリトアニアにe-Sealシステムを納入したという記事が載った(RFID Seals Provide Border Security in Eastern Europe)。この案件はHi-G-Tek社からプレスリリースも出ている(Hi-G-Tek and NTC Design Wireless RFID Cargo Security System for Customs Control Agency of Kazakhstan, Hi-G-Tek and INTA Provide Wireless Trade Lane Security Solution for Lithuanian Customs Authority)。単なるRFID事例として見たなら変わったことをやってるな、という感じだろうが、RFIDと安全保障との関係に興味を持っている僕としては非常に面白いので関連情報をメモしておく。

まず、RFID案件としては以下の通り。どちらのシステムもトランジット貨物を対象にしたもので、密輸や盗難を防ぐことを目的としている。Hi-G-Tek社が納入しているのは433MHzアクティブと125kHzパッシブの両対応のe-Seal。カザフスタンではe-Sealを取り付けるのはロシアと中国の国境。高速道路に433MHzのリーダーが50km間隔で設置されており、e-Sealが壊されていた場合にはアラーム信号を検知して国境警備隊に連絡するようになっている。

リトアニアではチェックポイントはベラルーシとロシア(カリーニングラード飛地)の国境に4箇所ずつある検問所になる。リトアニアはこのほかポーランドとラトビアとも国境を接しているのだが、これら3ヶ国はEU加盟国なので厳重な国境管理がないのであろう。これら8箇所の検問所ではベラルーシ⇔ロシア間のトランジット貨物に対してe-Sealを取り付ける。輸送中のトラックが不自然に停止した場合には振動センサーが動作し始め、異常な振動が続いた場合には無線で警報を送信してパトロール中の税関職員に通知されるようになっている。

これらは国境警備システムとしてはかなり重装備だ(安定した治安システムを前提にできる先進国の案件との単純な比較に意味は無いが)。素直に考えると、記事にもプレスリリースにも触れられていないが何らかの援助を基にしているということになる。Hi-G-Tekは成立の経緯や提供サービスで非常にアメリカ政府、特に米軍との縁が深い。カザフスタン・リトアニア共にアメリカが戦略的に重視するエリアだ(麻生前外相が唱えた「自由と繁栄の弧」に含まれるエリアでもある)。これらの国のアンダーグラウンドな組織(反政府組織や犯罪組織)が貨物の横流しによって利益を得ることも密輸によって武器・麻薬などが持ち込まれることも、アメリカにとってとても歓迎できる話ではない。税関・国境警備システムを援助によって強化するというのはとても理に適った政策だ。中国やロシアは外交上は面白くないだろうが、一方で彼らも盗難や密輸の被害者でもあり、それを取り締まるということは好都合な面もある。この種の綱引きがRFIDという舞台で行われているということにちょっとワクワクする。

で、RFIDの話に戻ると、僕はe-Sealやスマートコンテナの導入は主要海上貿易国間の利用状況で決まると思っていた。が、これらの分野での導入は経済面のインパクトも多く関係者がすぐに身動きが取れる状態には無い。むしろ、今回の事例が示すように物量の少ない不安定な国々に国境警備の一環として導入されることでデファクトが先に固まってしまう、という可能性がありうるのではないか、という可能性を考えさせられた。

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2008/04/18

Mojix STAR System続報(RFID Journal LIVE! 2008製品発表)

前回の記事で紹介したmojix社のMojix STAR Systemだが、RFID Journal LIVE! 2008での製品発表を受けてプレスリリースが出た(Mojix STAR System Proven in Year-Long Customer Field Trial Program)。このプレスリリースにはProcter & GambleとKraft Foodsのトライアルの内容が触れられている。Procter & GambleとのトライアルではSTARアンテナを物流センター内に一つ設置し、センター内に設置された40台の搬入口がすべて読み取り距離内にあること、そして4つの搬入口での積み降ろし作業を同時に読み取ることができたことが報告された。Kraft Foodsでは、ドイツにある物流センターへの実導入に取り掛かっており、実環境でも200,000平方フィート(18,000平方メートル)のセンター内を1台のリーダーでカバーし、毎秒700枚という読み取り速度を実現できているという。

前回のプレスリリースでも自信ありげな書き方をしていたので実用化に近づいていると想像はしていたが、いきなり商品スペックどおりの環境で、しかもKraft Foodsのような大手企業で実導入が始まっていたとまでは思わなかった。ちょっと呆然としてしまう。

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2008/04/16

Mojix STAR System (超遠距離Gen2タグ読み取り+高精度位置情報)

世の中にブレイクスルーというのはあるものだ、と思う。アメリカのベンチャー企業mojix社が、Gen2タグを従来の20倍以上の超遠距離から読み取る能力を持ち、なおかつRTLSとしても利用できる高い測位精度を持つシステムを開発したというニュースがRFID Update誌とRFID Journal誌で取り上げられた(RFID Update: Startup Touts 600-foot Read Range for Passive RFID, RFID Journal: Mojix Takes Passive UHF RFID to a New Level)。Mojix社からのプレスリリースにもリンクを張っておく(Mojix Inc. Launches Company and Unveils Revolutionary New Class of RFID System)。

Mojix社はNASAの深宇宙探査プログラムで働いていたエンジニアがスピンアウトして設立した企業だそうだ。このシステム、Mojix STAR 1000で利用されている技術は、アンテナとしてフェーズドアレイアンテナを採用し、受信信号の増幅とノイズの除去を高いレベルで行えるようにする。さらに、信号受信用のアンテナであるSTARと電力供給用のアンテナであるeNodesを分離し、電力供給によるノイズが信号受信に干渉しないようにする。この2つの技術の組み合わせにより、一つの受信用アンテナSTARにより、600フィート(180メートル)先から一般的なGen2タグを読み取ることができ、250,000平方フィート(23,000平方メートル)のエリアをカバーできるとしている。同社によるとテストでは1,000フィート(300メートル)を超える距離でも読み取りはできたとのこと。これほどの広域を1台のリーダーで読み取るとなると読み取り速度も気になるが、同社のサイトでは1秒に700枚のタグを読み取ることができる、となっている。

このシステムの凄みは、RTLSシステムとしても動作する点にある。もともとフェーズドアレイアンテナはイージス艦のレーダーに使われている技術であり高い測位能力を持つのだが、Mojix STAR Systemではタグの3次元位置情報を半径30センチという精度で取得できる。前回のUWB RTLSの記事で触れたが、通常のアクティブタグの測位誤差はその10倍である。

さらに、Gen2タグを使うという特性を使い非常に面白い用途を提案している。例えば、Gen2タグ付きのパレットの上にこれまたGen2タグ付きのケースを載せてラップしたものに対し、各タグの3次元の位置関係を取得してデータにできるのだ。この機能をeGroupsという。eGroupsを使うと、例えばパレット上のタグのすべてを読み取ることができなくても読み取れたタグの位置情報を元に正しくパレットを受け取ったと推定できる、逆に位置情報がおかしくなっていることでラップが途中でバラされて再梱包された、という状況を推定してアラートを出すこともできる。

これほどの技術なのにすでにモノはできているようで、現在開催中のRFID Journal LIVE! 2008(2008/04/16~18)にデモが出展される。RFID分野のSI大手Xterprise社の施設でテストを行い、すでにFortune 50に属する大企業でのトライアルも行われているという。

正直なところ、セキュリティ・プライバシーに関する議論など導入の周辺も含めてのインパクトがまったく読めない。RFID Journal LIVE!での発表後の動向をウオッチしていきたい。

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2008/04/03

UWB RTLS

最近UWBを用いたRTLSの事例が海外メディアに登場することが増えてきた(RFID Update: UWB Finding a Place in the RTLS Marketなど)。内容を見てみると非常に面白い技術であり、現状を簡単にまとめておきたい。

UWB RTLSで利用されるのはUWB IR(UWB Impulse Radio)と呼ばれる通信方式である。UWBは3GHz~10GHzのマイクロ波帯を使用し、500MHz以上の帯域幅に低出力で信号電力を拡散する無線通信方式である。最近話題のワイヤレスUSBは近距離高速通信を目的としたものでOFDM変調方式を用いているが、UWB IRでは変調を行わずに2ナノ秒での超短インパルスを直接伝送する。この方式が可能にする技術的な特徴は2つある。1つは高い測位精度であり、三辺測量を用いて実環境で30センチという測位精度を実現できる。Wi-Fiや433MHzアクティブタグを用いた技術では3m程度が実用精度であることを考えると、この精度は驚異的と言ってよい。もう一つの特徴は消費電力の少なさで、連続波でなくインパルスを利用するために原理的に消費電力を大きく抑えることができる(ただし、現在のUWB RTLSの主要アプリケーションはタグにシビアな省電力を求めるものではないため、十分なチューニングはまだ行われていない模様)。

UWB RTLSは既に商用化がなされている技術であり、英Ubisense社米TimeDomain社の2社がマーケットリーダーになっている。両社ともこの技術に特化したベンチャー企業であり、VCからの出資を受けながら規模を拡大させている。現在は標準仕様は存在せず、異なるベンダの製品の間での互換性は無い。報道から伺われる範囲においてはベンダー間での話し合いや標準化機関への仕様の依託も行われていないようだ。各国電波法状況については、アメリカでは3.1GHz~10.6GHzの利用が既に認可されており、ヨーロッパでは欧州委員会により3.4GHz~4.8GHz・6GHz~8.5GHzの6ヶ月以内の認可が3月1日に議決された(これ以前に各国ごとに認可が行われている)。日本においてはUWB IRの利用はまだ作業中となっている模様。

現時点でUWB RTLSが注力しているアプリケーションは病院での人員・アセットのロケーション管理だ。新興技術のためベンダーが多くの分野に努力を分散できない、現時点ではタグの単価が高いため高価なアセットにしか取り付けられないという理由があるのだろう。もっとも、それ以外にも面白いアプリケーションがちらほら記事になっている。僕が驚いたのはアメリカのロデオ練習場での事例で、UWB RTLSと記録用カメラを連動させ、常に馬の首にカメラの焦点を合わせるというものだ(RFID Journal: RFID-Guided Video System Gives Equestrians Their Best Shot)。

消費電力が少ない以上、将来的にはタグ価格も下がっていくと考えられる。むしろ問われるのは「目視確認無しで30センチの測位精度を得られるRTLSシステムをどう使うか」という利用者側での想像力ではないか。これから普及が進み、メインストリームになる直前の時点において、先行ユーザがどのように使っていくか、興味深い。

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