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2007/02/15

CEP (Complex Event Processing)

(今回の記事はシステム開発の知識を持つ人向けです。ご容赦ください)

RFID Journalのメルマガを読んでいるとExpert View欄にComplex Event Processingという概念についての記事が載っていた(Complex Event Processing and RFID)。耳にした記憶のある概念だったので過去記事を検索してみると、2年半前に同じExpert View欄に記事が載っており(Separating Wheat from Chaff)、面白い記事だと思って読んだ記憶が蘇ってきた。当時の記事にはEPCglobalに担当するSoftware Action Groupができて標準化作業を始めたとあるのだが今回の記事にはその後の進展をうかがわせる記述は無い。当時は慌しくて読み飛ばしてしまった記事なので調べなおしてみることにした。

Googleで"Complex Event Processing"を検索してみるとヒットする日本語のページは82ページ。リンク集などではなく少しでも説明をしているページはせいぜい10ページほどか。それでも読んでみればある程度のことが分かった。発生するイベントデータをストリームの状態で分析することで、データマートなどで事後的な分析をするのとは異なるリアルタイムの判断に利用できること、現時点ではRFIDではなくトレーディングやクレジットカードなどの金融分野で利用が先行していること、SOAのインタフェースを経由して流れ込んでくるデータを利用するための付加価値として大手ベンダが注目していること、など。が、具体的にどのような処理を行うものであるのかがさっぱりわからない。ソースコードのようなものを載せているサイトもあるのだが、あまりに断片的なのだ。デベロッパー上がりとしてはこんな状態で「分かりました」と納得するのは気持ちが悪い。

一方、英語の検索結果は10万ページを超える。こういった情報量の格差を見るとやっぱり凹んでしまうが、いくつか目に付くページを開いてみても日本語のページと同様のハイレベルな記述ばかり。どうしたものかと思っていたら何のことは無いRFID Journalの記事にリンクがあるCorel8のサイトにまとまった情報があった(Corel8 Developer Center)。特にこのページからダウンロードできる"Complex Event Processing: Ten Design Patterns"という19ページのドキュメントが良い(pdf)。基本的な機能をサンプルコードを使って説明したもので、特に予備知識を持たずに読んでも大丈夫。この製品ではSQLに似たCCL(Continuous Computation Laungage)という言語を利用しているので、SQLの基本的な知識があればなお馴染みやすいだろう。

かえって分かりにくい比喩になってしまうかもしれないが、このドキュメントを読んだ僕の理解は、ログファイルを直にフィルタ系スクリプト(awkとか)に喰わせているようなものか、というもの。ログファイルの1行が一つのイベントに相当し、新たな行を読み込むごとにパターンが評価され、加工したデータの出力やプログラムの起動などが行われる。もちろんCEPエンジンは高機能なミドルウェアであり、複数の入力ストリームのサポートや時系列データの取り扱いの抽象化、そして言うまでもなくパフォーマンスチューニングや障害対策などの企業アプリケーションインフラとしての作りこみが行われている。個人的には軽量・簡易なフリーのCEPエンジンがあれば侵入検知システム(IDS)とかを書いてみたいと思った。

これはかなりシステムインフラ寄りの機能である。作りこみのライブラリをCEPエンジンで置き換えれば開発工数や保守性は大きく向上するだろうが、現在同種のシステムを持っていない企業がCEPエンジンを使って新しいコンセプトのアプリケーションを作ることができるか、というとそれはどうだろうかと思う。業務寄りのライブラリや標準部品、デザインパターンなどがRFID分野への普及の鍵を握るかと思うが、まだその分野の情報は少なそうだ。とりあえずはRFID分野のSIベンダがCEPエンジンに習熟していくことでエンジン自体や開発コミュニティの成熟を待つのが良いだろうか。

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2007/02/12

RFID METRICS / William Oliver Hedgepeth(著)

RFID Metricsというタイトルはとても魅力的だ。評価が難しいといわれているRFIDの導入効果、その測定に取り組んでみたいと思っている人は多いだろう。残念なのは、この本の内容がそういう人の期待に応えるものではないことだ。

本書の前半はRFID技術の概論や物流分野での利用状況について説明している。記述は断片的で、充分な知識の無い人は理解できないか誤解するかであり、知識がある人にとっては新たに得るものがほとんど無いという内容だ(ロシアでのRFID利用状況など興味を引くトピックもあるが分量は少ない)。後半にはいくらかタイトルに近い内容が出てくる。一つは本書の中で「ウォーゲーム」と呼ばれるデルファイ法に似た未来予測と意思決定の手法、そしてもう一つはRFID技術が業務を改善するという架設を検証するための評価方法。ただ、いずれも概略の説明にとどまっており、RFID技術の特性を踏まえた注意点や具体的に作業を進めていくための説明などは含まれていない。

本書の冒頭には「これは教科書である」という記述がある。そうなのかもしれない。この本を使って実習を含む1学期分の講義を行うことはできるだろう。だが、講師による解説無しで自習の手引きとして使うには完成度が低すぎる。実務家にはあまりお勧めできない本だと思う。話の種に買ってみる、というにはちょっと値段も高いしね。

ISBN: 0849379792 / $79.95

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2007/02/06

イラク撤退と輸入コンテナ全数検査

筆者はe-Sealやスマートコンテナの導入は営利ベースでは進まず(RFIDコンテナプレートは利用が広がるかもしれないが)、導入の可能性があるとすればアメリカ政府による義務付けだろうと考えている。その視点から最近気になるニュースがある。民主党主導の議会が、アメリカに輸入されるコンテナの全数検査を義務付ける法案の導入を検討している、というものだ(RFID Journal: Brains, Dollars and Technology Equals Security)。

このニュース、インパクトが大きい割には現状の良いソースが見つからない。該当法案、Security and Accountability for Every (SAFE) Ports Act(pdf)が議会を通過し、ブッシュ大統領が署名して正規の法案になったのは選挙前の2006年10月13日で、その中にはすべての貨物コンテナの検査とすべてのハイリスク貨物コンテナのスキャンの実現可能性を検証するためのパイロットに予算を付ける措置が含まれている(Logistics TODAY: A Security Law Shippers Can Live With)。AMR Researchの記事によると、民主党議会はこの取り組みを拡張し、2009年までに海外の大規模港湾から積み出される貨物の100パーセントが船積み前にスクリーニングされていることを確認し、さらに5年で対象をより小規模の港湾まで広げること、および技術が利用可能になり次第e-Sealの利用を義務付けること、を含めようとしている(Transportation 2007: Issues Facing the 110th Congress)、ということで、RFID Journalとはややニュアンスが違う。

この問題はどうもこじれそう、というか政争の具になりそうな気がする。昨年末のベーカー=ハミルトン報告書の発表以来、アメリカの世論は急速にイラク撤退に傾き、民主党の大統領選挙候補者たちは撤退についてのプランを競うように発表している。この問題を国家戦略と言った視点から論じるのはこのBlogの役目ではないし良い論説も多く出ている(例えば寝言@時の最果て: イラク戦争の「本当の理由」)。が、テロ対策や本土防衛の視点から見た場合、米軍のイラクからの撤退は「兵士を中東に送り込むことで本来ならアメリカ本土でテロを行うかも知れないテロリストを引き付ける」というビジネスモデル(酷い表現だが)の破綻を意味する。イラク撤退が2008年の大統領選に向けての最大のテーマになるならば、それと裏腹にある関係の本土防衛もまた大きなテーマになるのが道理だ。

テロ対策というのは個々の脅威を潰していくというよりもシステム全体で脅威を管理可能な(あるいは耐えられる)レベルに押さえ込むという形で行われるべきものだし、アメリカ人と彼らが作る組織は本来このようなアプローチに高い能力を示すのだが、一般市民を巻き込んだ選挙キャンペーンの中でもみくちゃにされたときにどうなるかは予断を許さない。全数検査が無理ならばe-Sealやスマートコンテナの導入を、という話題が出てくれば、その時点での技術の成熟や供給能力、場合によっては積み出し国の法的規制さえ無視して話が進んでしまう可能性すら無くはあるまい。まずは状況を注視、ということになるのだろうか。

余談ながら、アメリカ議会には重要法案に全く無関係な法案をくっつけて議決してしまう、という習慣があるらしい。昨年話題になったオンラインカジノの規制法案はこのSAFE Ports Actの一部として議決されたそうだ。

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