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2006/10/31

EPC ISと輸送器材

昨日の記事では「どれほど重要な技術であっても所詮はパズルのピースの一つ」と書いたが、それと同時に技術はそれ自体の生命力を持ってもいる。思いもよらなかったような分野で用途が見つかったり、その結果が更に別の用途に影響を与えたりする。

数ヶ月前までは僕はEPCグローバルネットワーク、特にそのコアとなるEPC ISの普及はまだまだ先の話だと考えていた。ユースケースはあまりにも複雑だし、技術的な仕様についてすらベンダの相互運用性テストでローカルタイムゾーンの扱いの違いなどがボロボロ出てくるレベルだ(Interop Tests Bring EPCIS Closer to Standard)

だが、この秋になって、内外の輸送器材レンタル会社の多くが自社の器材管理を主な目的としてGen2システムの導入を開始したというニュースを複数目にするようになった(Container Centralen to Monitor Millions of Crates, CHEP Announces New RFID-Enabled Container-Tracking Service, IGPS Rolls Out RFID-Enabled Plastic Pallets, 【日本パレットレンタル】 「Gen 2」準拠のIC タグ付きパレットを物流のキーデバイスに)。利用するコードはEPCのリターナブル資産コード体系であるGRAI(Global Returnable Asset Identifier)。そして多くの企業ではEPC ISの導入を謳っている。

レンタル会社の立場に立ってみれば当然のことで、Gen2タグの導入を決めた時点ではすでに規格とミドルウェアが存在する。わざわざ独自コードを採用したり情報交換機能を自分で作りこんだりする必要は無い。EPCglobalに参加する費用は発生するが、将来は顧客への付加サービスとして訴求できると考えればコストとしてペイするものなのだろう。

だが、それら企業の外部から見ると、EPC ISが実業務で立ち上がる意味は大きい。例えばトラック・トレイラーや海上コンテナといった隣接分野への利用のプレッシャーは増えていくだろう。EPCglobalのTLS BAGは日本と香港の間での海上コンテナのトラッキングにEPC ISを適用するトライアルを立ち上げた(EPCglobal Inc Initiates RFID Pilot Project to Enable Sea Container Visibility Between Hong Kong and Japan)。また、全然関係ない分野でも「実際に動いているインフラがあるのなら」というマーケットの立ち上がり方があるかもしれない。

RFID Journalも業界別に分割したメルマガを発行しはじめるなど、RFID技術も各業界への分化が進みつつある。それ自体は結構なことだと思うが、他の業界へアンテナを広げておくことはまだまだ重要だ。

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2006/10/30

RFID日系企業勉強会inニューヨーク・参加者募集

現在、ニューヨーク近郊の日系企業でRFID技術を担当されている方を対象としてRFIDの勉強会を開催しようとしています。まずは集まって情報交換を行い、ある程度アクティブに活動できるメンバーでそれ以上の方向性を揉んで行きたいと考えております。なお、最初の勉強会は12月上旬の予定です。

ご興味のある方がいらっしゃればこのエントリにコメントを付けて頂くか「kh588あっとまーくnyu.edu」までメールを頂けましたら幸いです。なお、将来的にはオンラインでの参加や情報発信を考えておりますが、最初はオフラインでお会いできるメンバーで集まって方向性を固めたい、と考えておりますのでご了承いただければ幸いです。逆に、オフラインで参加可能であれば、大学で活動されている方、あるいはフリーのエンジニアの方もコンタクトいただければ大変嬉しく思います。

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Protecting the Nation's Seaports: Balancing Security and Cost

修士論文がらみのエントリをもう一つ。Protecting the Nation's Seaports: Balancing Security and Costというカリフォルニア州公共政策研究所によるレポートだ。300ページ弱のこのレポートはカリフォルニア州のコンテナ港湾施設へのテロリストの攻撃に関する7本の論文をまとめてイントロダクションを付けたもの。何だ州レベルの話か、と軽く見てはいけない。アメリカが輸入するコンテナの40パーセントはLos Angeles郊外のコンテナターミナルを通過するのだ。

第2章・第3章はLos Angeles郊外のコンテナターミナルへの攻撃の効果を別の視点で分析したもの。一つの論文は攻撃による混乱は一時的なもので大きな経済効果をもたらさないとするが、もう一つの論文は最大で450億ドルという甚大な損失が発生するとする。これら2つの論文は全く異なるモデルを用いて別の数字を積み上げており、刷り合わせを行うことは困難だ。テロ対策という分野で定量的な議論を行うことの難しさを示している。

第4章は輸入コンテナにテロリストがアクセスすることによる脅威と、それに対する対応の一般策。第5章はe-Sealやスマートコンテナを含む技術的な対策と、それら対策からの利益を得るアプローチについて冷戦期から議論されているDual Use Technologyの文脈から論じている。

第6章はLos Angeles港のセキュリティ対策の弱点を15もの組織が絡み合う複雑な管理体制から説いている。第7章は連邦政府レベルでの活動について、米国海事保安法(Maritime Transportation Security Act)やCSI・C-TPATの成立の経緯と現時点での評価が主な主題。予算が各港湾の取り扱いコンテナ量を踏まえずに総花式に配分されている現状が指摘されている。最終章はテロ対策の予算をどう取り扱うかというテーマで、利用料の徴収や目的税方式ではなく一般予算からの予算割当てと民間部門への規制の適用でまかなうべき、としている。

…とここまで書いて、正直「うわ、マニアックだな俺(笑」的なものを自分で感じないわけではない(苦笑)。e-Sealやスマートコンテナに関する記述は第5章のさらに一部だ。これら論文のすべてを読んで評価することはその筋の方にお任せしたいが(半年近く前のリリースなのでその筋の方はとっくに読んでしまっているだろうけど)、RFIDのセキュリティに関する話としては、e-Sealのようなセキュリティ確保のためのコアテクノロジーであってもセキュリティ対策を本当に全体から眺めた場合にはこの程度の割合しか持たないということだ。どれほど重要な技術であっても所詮はパズルのピースの一つである、それをいかに組み上げるかが重要だ、ということは頭で判っていても、技術屋の悲しさで実感はなかなか難しい。e-Sealに限らずRFIDをそれなりに複雑なセキュリティ用途に利用するのであれば、このレポートの1章だけでも目を通せば技術に対する距離感を掴むのに役立つのではないだろうか。

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2006/10/08

America The Vulnerable / Stephen Flynn(著)

いつもとちょっと違うジャンルの書評だが、RFIDに無関係というわけではない。この本はアメリカの一般の読者が手に取るものとしてはおそらく唯一、e-Sealやスマートコンテナについて具体的に触れているものなのだ。

ということでまずは一般的な書評から。著者のStephen Flynn氏はアメリカ沿岸警備隊の士官として20年間勤めた後、父ブッシュ政権下でホワイトハウス軍務室に異動、さらにクリントン政権下でNSC(国家安全保障会議)に国際情勢のディレクターとして勤務した(NSCについてはやじゅんのページ:安倍新政権とNSC(国家安全保障会議)を参照されたい)。アメリカでは海上警備の第一人者として知られている人物である。この書籍は「脆弱なアメリカ」というタイトルの通り、現在のアメリカが国内でのテロに対していかに脆弱であるか、そして、その対策のためには何が必要で、連邦政府が現在何に取り組み何が課題となっているかを一般の読者に向けて書いたものである。テロ対策ということで、たとえばバイオテロに対応するための検査機関・高度医療機関の不足といったテーマについても触れられているが、著者の経歴から分かるとおり海上警備、具体的にはコンテナ貨物輸入におけるセキュリティ対策が内容の中心となっている。

一般的な対テロ政策に興味がある人にとってはとても興味深い本だろう。テロの脅威を完全に廃絶することはできず、脅威を管理可能なレベルまで下げることが重要であること、特定の対策が重要なのではなく、それらを組み合わせてシステムとしてリスクを下げねばならないこと、そのためにはコミュニケーションが決定的な役割を果たすこと、など、真っ当だが専門家の口から語られると重い内容が続く。9/11後のボストン・ローガン空港でのテロ対策の試行錯誤、あるいはDHSが成立するまでの過程など、興味を引く記述も多い。また、アメリカ軍が国内での活動にきわめて冷淡であるといった日本人にはあまり馴染みのない記述もある。20年前に沿岸警備隊のパトロールボートの艇長だった著者は、中東からノーフォーク軍港に戻ってくる巡洋艦の沿岸での警備を命じられる。警備の内容にはテロリストによるモーターボートでの自爆攻撃への対処も含まれていたが、著者のパトロールボートからは整備不良と弾丸の不足のため機銃が降ろされていた。筆者は海軍との打ち合わせでそのような事情を説明し、「ノーフォークには海軍特殊部隊の小型艇がいくつもあるではないですか」と言うと、相手の海軍少将の返事は「アメリカ沿岸での警備活動など、海軍の仕事では無い!」であったという。このエピソードなど、大井篤の「海上護衛戦」を読んだことのある身としては苦笑を禁じえなかった。

が、e-Seal・スマートコンテナ関係の記述という視点からはかなり物足りなかった。書かれている部分については間違っていないので、一般書とはいえ当事者が啓蒙のために書いたものということで関係者は絶対に読んでおくべきではある。が、いわば夢の技術としてスマートコンテナのメリットを語るばかりで、具体的にどのように導入していくかについての記述がはなはだ少ない。あるいは専門家にして実際には手をつけられない画餅ということなのか。そうだとしたらこの部分を現在まさに考察している人間としてはかなり悲しいものがある。

ISBN: 0060571292 / $13.95

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